寄せて来るとすると、……
「おい海嘯であすこいらの宿屋がすっかり波に攫《さら》われる事があるかい」
自分は本当に心配の余り下女にこう聞いた。下女はそんな事はないと断言した。しかし波が防波堤を越えて土手下へ落ちてくるため、中が湖水《みずうみ》のようにいっぱいになる事は二三度あったと告げた。
「それにしたって、水に浸《つか》った家《うち》は大変だろう」と自分はまた聞いた。
下女は、高々水の中で家がぐるぐる回《まわ》るくらいなもので、海まで持って行かれる心配はまずあるまいと答えた。この呑気《のんき》な答えが心配の中にも自分を失笑せしめた。
「ぐるぐる回りゃそれでたくさんだ。その上海まで持ってかれた日にゃ好い災難じゃないか」
下女は何とも云わずに笑っていた。嫂《あによめ》も暗い方から電灯をまともに見始めた。
「姉さんどうします」
「どうしますって、妾《あたし》女だからどうして好いか解らないわ。もしあなたが帰るとおっしゃれば、どんな危険があったって、妾いっしょに行くわ」
「行くのは構わないが、――困ったな。じゃ今夜は仕方がないからここへ泊るとしますか」
「あなたが御泊りになれば妾も泊るより
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