《だいぶ》閉口しているんですがね。昨日《きのう》迷亭さんが来て悪口をいったものだから、思ったほど利《き》かないかも知れない」
「だっていいじゃありませんか。あんな風に鷹揚《おうよう》に落ちついていれば、――こないだ学校で演説をなすったわ」
「八木さんが?」
「ええ」
「八木さんは雪江さんの学校の先生なの」
「いいえ、先生じゃないけども、淑徳《しゅくとく》婦人会《ふじんかい》のときに招待して、演説をして頂いたの」
「面白かって?」
「そうね、そんなに面白くもなかったわ。だけども、あの先生が、あんな長い顔なんでしょう。そうして天神様のような髯《ひげ》を生やしているもんだから、みんな感心して聞いていてよ」
「御話しって、どんな御話なの?」と妻君が聞きかけていると椽側《えんがわ》の方から、雪江さんの話し声をききつけて、三人の子供がどたばた茶の間へ乱入して来た。今までは竹垣の外の空地《あきち》へ出て遊んでいたものであろう。
「あら雪江さんが来た」と二人の姉さんは嬉しそうに大きな声を出す。妻君は「そんなに騒がないで、みんな静かにして御坐わりなさい。雪江さんが今面白い話をなさるところだから」と仕事を隅へ片付ける。
「雪江さん何の御話し、わたし御話しが大好き」と云ったのはとん子で「やっぱりかちかち[#「かちかち」に傍点]山の御話し?」と聞いたのはすん子である。「坊ばも御はなち」と云い出した三女は姉と姉の間から膝を前の方に出す。ただしこれは御話を承《うけたま》わると云うのではない、坊ばもまた御話を仕《つかまつ》ると云う意味である。「あら、また坊ばちゃんの話だ」と姉さんが笑うと、妻君は「坊ばはあとでなさい。雪江さんの御話がすんでから」と賺《す》かして見る。坊ばはなかなか聞きそうにない。「いやーよ、ばぶ」と大きな声を出す。「おお、よしよし坊ばちゃんからなさい。何と云うの?」と雪江さんは謙遜《けんそん》した。
「あのね。坊たん、坊たん、どこ行くのって」
「面白いのね。それから?」
「わたちは田圃《たんぼ》へ稲刈いに」
「そう、よく知ってる事」
「御前がくうと邪魔《だま》になる」
「あら、くう[#「くう」に傍点]とじゃないわ、くる[#「くる」に傍点]とだわね」ととん子が口を出す。坊ばは相変らず「ばぶ」と一喝《いっかつ》して直ちに姉を辟易《へきえき》させる。しかし中途で口を出されたものだから、
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