に小供だあね、打《うっ》ちゃっておけばいいさ」
「君はよかろうが僕はよくない。昨日《きのう》は教師を呼びつけて談判してやった」
「それは面白かったね。恐れ入ったろう」
「うん」
この時また門口《かどぐち》をあけて「ちょっとボールが這入《はい》りましたから取らして下さい」と云う声がする。
「いや大分《だいぶ》来るじゃないか、またボールだぜ君」
「うん、表から来るように契約したんだ」
「なるほどそれであんなにくるんだね。そうーか、分った」
「何が分ったんだい」
「なに、ボールを取りにくる源因がさ」
「今日はこれで十六返目だ」
「君うるさくないか。来ないようにしたらいいじゃないか」
「来ないようにするったって、来るから仕方がないさ」
「仕方がないと云えばそれまでだが、そう頑固《がんこ》にしていないでもよかろう。人間は角《かど》があると世の中を転《ころ》がって行くのが骨が折れて損だよ。丸いものはごろごろどこへでも苦《く》なしに行けるが四角なものはころがるに骨が折れるばかりじゃない、転がるたびに角がすれて痛いものだ。どうせ自分一人の世の中じゃなし、そう自分の思うように人はならないさ。まあ何だね。どうしても金のあるものに、たてを突いちゃ損だね。ただ神経ばかり痛めて、からだは悪くなる、人は褒《ほ》めてくれず。向うは平気なものさ。坐って人を使いさえすればすむんだから。多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》どうせ、叶《かな》わないのは知れているさ。頑固もいいが、立て通すつもりでいるうちに、自分の勉強に障ったり、毎日の業務に煩《はん》を及ぼしたり、とどのつまりが骨折り損の草臥儲《くたびれもう》けだからね」
「ご免なさい。今ちょっとボールが飛びましたから、裏口へ廻って、取ってもいいですか」
「そらまた来たぜ」と鈴木君は笑っている。
「失敬な」と主人は真赤《まっか》になっている。
鈴木君はもう大概訪問の意を果したと思ったから、それじゃ失敬ちと来《き》たまえと帰って行く。
入れ代ってやって来たのが甘木《あまき》先生である。逆上家が自分で逆上家だと名乗る者は昔《むか》しから例が少ない、これは少々変だなと覚《さと》った時は逆上の峠《とうげ》はもう越している。主人の逆上は昨日《きのう》の大事件の際に最高度に達したのであるが、談判も竜頭蛇尾たるに係《かかわ》らず、どうかこうか始末がついたのでその晩書
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