ョ場の方面には砲隊が形勝の地を占めて陣地を布《し》いている。臥竜窟《がりょうくつ》に面して一人の将官が擂粉木《すりこぎ》の大きな奴を持って控《ひか》える。これと相対して五六間の間隔をとってまた一人立つ、擂粉木のあとにまた一人、これは臥竜窟に顔をむけて突っ立っている。かくのごとく一直線にならんで向い合っているのが砲手である。ある人の説によるとこれはベースボールの練習であって、決しト戦闘準備ではないそうだ。吾輩はベースボールの何物たるを解せぬ文盲漢《もんもうかん》である。しかし聞くところによればこれは米国から輸入された遊戯で、今日《こんにち》中学程度以上の学校に行わるる運動のうちでもっとも流行するものだそうだ。米国は突飛《とっぴ》な事ばかり考え出す国柄であるから、砲隊と間違えてもしかるべき、近所迷惑の遊戯を日本人に教うべくだけそれだけ親切であったかも知れない。また米国人はこれをもって真に一種の運動遊戯と心得ているのだろう。しかし純粋の遊戯でもかように四隣を驚かすに足る能力を有している以上は使いようで砲撃の用には充分立つ。吾輩の眼をもって観察したところでは、彼等はこの運動術を利用して砲火の功を収めんと企てつつあるとしか思われない。物は云いようでどうでもなるものだ。慈善の名を借りて詐偽《さぎ》を働らき、インスピレーションと号して逆上をうれしがる者がある以上はベースボールなる遊戯の下《もと》に戦争をなさんとも限らない。或る人の説明は世間一般のベースボールの事であろう。今吾輩が記述するベースボールはこの特別の場合に限らるるベースボール即《すなわ》ち攻城的砲術である。これからダムダム弾を発射する方法を紹介する。直線に布《し》かれたる砲列の中の一人が、ダムダム弾を右の手に握って擂粉木の所有者に抛《ほう》りつける。ダムダム弾は何で製造したか局外者には分らない。堅い丸い石の団子のようなものを御鄭寧《ごていねい》に皮でくるんで縫い合せたものである。前《ぜん》申す通りこの弾丸が砲手の一人の手中を離れて、風を切って飛んで行くと、向うに立った一人が例の擂粉木をやっと振り上げて、これを敲《たた》き返す。たまには敲き損《そこ》なった弾丸が流れてしまう事もあるが、大概はポカンと大きな音を立てて弾《は》ね返る。その勢は非常に猛烈なものである。神経性胃弱なる主人の頭を潰《つぶ》すくらいは容易に出来る。砲
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