我れをいとど寒がらしめ玉うの神意かも知れぬ。
 かくして太織の蒲団を離れたる余は、顫えつつ窓を開けば、依稀《いき》たる細雨《さいう》は、濃かに糺の森を罩《こ》めて、糺の森はわが家《や》を遶《めぐ》りて、わが家の寂然《せきぜん》たる十二畳は、われを封じて、余は幾重《いくえ》ともなく寒いものに取り囲まれていた。
  春寒《はるさむ》の社頭に鶴を夢みけり




底本:ちくま文庫『夏目漱石全集10』筑摩書房
   1988年7月26日 第1刷発行
親本:筑摩全集類聚版夏目漱石全集 筑摩書房
入力者:柴田卓治
校正者:大野晋
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