と云うと、さも面倒くさそうな顔つきをして、うん今|金《かね》の事を少し考えているところだと答えた。せっかく空谷子の所へ来て、また金の話なぞを聞かされてはたまらないから、黙ってしまった。すると空谷子が、さも大発見でもしたように、こう云った。
「金は魔物だね」
空谷子の警句としてははなはだ陳腐《ちんぷ》だと思ったから、そうさね、と云ったぎり相手にならずにいた。空谷子は火鉢の灰の中に大きな丸を描《か》いて、君ここに金があるとするぜ、と丸の真中を突ッついた。
「これが何にでも変化する。衣服《きもの》にもなれば、食物《くいもの》にもなる。電車にもなれば宿屋にもなる」
「下らんな。知れ切ってるじゃないか」
「否《いや》、知れ切っていない。この丸がね」とまた大きな丸を描いた。
「この丸が善人にもなれば悪人にもなる。極楽へも行く、地獄へも行く。あまり融通が利《き》き過ぎるよ。まだ文明が進まないから困る。もう少し人類が発達すると、金の融通に制限をつけるようになるのは分り切っているんだがな」
「どうして」
「どうしても好いが、――例《たと》えば金を五色《ごしき》に分けて、赤い金、青い金、白い金などとしても好かろう」
「そうして、どうするんだ」
「どうするって。赤い金は赤い区域内だけで通用するようにする。白い金は白い区域内だけで使う事にする。もし領分外へ出ると、瓦《かわら》の破片《かけら》同様まるで幅が利《き》かないようにして、融通の制限をつけるのさ」
もし空谷子が初対面の人で、初対面の最先《さいさき》からこんな話をしかけたら、自分は空谷子をもって、あるいは脳の組織に異状のある論客《ろんかく》と認めたかも知れない。しかし空谷子は地球より大きな火事を想像する男だから、安心してその訳を聞いて見た。空谷子の答はこうであった。
「金はある部分から見ると、労力の記号だろう。ところがその労力がけっして同種類のものじゃないから、同じ金で代表さして、彼是《ひし》相通ずると、大変な間違になる。例えば僕がここで一万|噸《トン》の石炭を掘ったとするぜ。その労力は器械的の労力に過ぎないんだから、これを金に代えたにしたところが、その金は同種類の器械的の労力と交換する資格があるだけじゃないか。しかるに一度《ひとたび》この器械的の労力が金に変形するや否や、急に大自在《だいじざい》の神通力《じんずうりき》を得て、道
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