こん》や藍《あい》の色を波間に浮かしていた。そういう有様を目撃したばかりの私の眼《め》には、猿股一つで済まして皆《みん》なの前に立っているこの西洋人がいかにも珍しく見えた。
彼はやがて自分の傍《わき》を顧みて、そこにこごんでいる日本人に、一言《ひとこと》二言《ふたこと》何《なに》かいった。その日本人は砂の上に落ちた手拭《てぬぐい》を拾い上げているところであったが、それを取り上げるや否や、すぐ頭を包んで、海の方へ歩き出した。その人がすなわち先生であった。
私は単に好奇心のために、並んで浜辺を下りて行く二人の後姿《うしろすがた》を見守っていた。すると彼らは真直《まっすぐ》に波の中に足を踏み込んだ。そうして遠浅《とおあさ》の磯近《いそちか》くにわいわい騒いでいる多人数《たにんず》の間《あいだ》を通り抜けて、比較的広々した所へ来ると、二人とも泳ぎ出した。彼らの頭が小さく見えるまで沖の方へ向いて行った。それから引き返してまた一直線に浜辺まで戻って来た。掛茶屋へ帰ると、井戸の水も浴びずに、すぐ身体《からだ》を拭《ふ》いて着物を着て、さっさとどこへか行ってしまった。
彼らの出て行った後《あと》
前へ
次へ
全371ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング