私の身体《からだ》、すべて私という名の付くものを五|分《ぶ》の隙間《すきま》もないように用意して、Kに向ったのです。罪のないKは穴だらけというよりむしろ明け放しと評するのが適当なくらいに無用心でした。私は彼自身の手から、彼の保管している要塞《ようさい》の地図を受け取って、彼の眼の前でゆっくりそれを眺《なが》める事ができたも同じでした。
 Kが理想と現実の間に彷徨《ほうこう》してふらふらしているのを発見した私は、ただ一打《ひとうち》で彼を倒す事ができるだろうという点にばかり眼を着けました。そうしてすぐ彼の虚《きょ》に付け込んだのです。私は彼に向って急に厳粛な改まった態度を示し出しました。無論策略からですが、その態度に相応するくらいな緊張した気分もあったのですから、自分に滑稽《こっけい》だの羞恥《しゅうち》だのを感ずる余裕はありませんでした。私はまず「精神的に向上心のないものは馬鹿《ばか》だ」といい放ちました。これは二人で房州《ぼうしゅう》を旅行している際、Kが私に向って使った言葉です。私は彼の使った通りを、彼と同じような口調で、再び彼に投げ返したのです。しかし決して復讐《ふくしゅう》では
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