そうと答える訳にいかなかったのです。私は依然として彼の顔を見て黙っていました。するとKの方からつかつかと私の座敷へ入って来て、私のあたっている火鉢の前に坐《すわ》りました。私はすぐ両肱《りょうひじ》を火鉢の縁から取り除《の》けて、心持それをKの方へ押しやるようにしました。
 Kはいつもに似合わない話を始めました。奥さんとお嬢さんは市ヶ谷のどこへ行ったのだろうというのです。私は大方|叔母《おば》さんの所だろうと答えました。Kはその叔母さんは何だとまた聞きます。私はやはり軍人の細君《さいくん》だと教えてやりました。すると女の年始は大抵十五日|過《すぎ》だのに、なぜそんなに早く出掛けたのだろうと質問するのです。私はなぜだか知らないと挨拶するより外《ほか》に仕方がありませんでした。

     三十六

「Kはなかなか奥さんとお嬢さんの話を已《や》めませんでした。しまいには私《わたくし》も答えられないような立ち入った事まで聞くのです。私は面倒よりも不思議の感に打たれました。以前私の方から二人を問題にして話しかけた時の彼を思い出すと、私はどうしても彼の調子の変っているところに気が付かずにはいられ
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