家庭の一員となった結果は、私の運命に非常な変化を来《きた》しています。もしその男が私の生活の行路《こうろ》を横切らなかったならば、おそらくこういう長いものをあなたに書き残す必要も起らなかったでしょう。私は手もなく、魔の通る前に立って、その瞬間の影に一生を薄暗くされて気が付かずにいたのと同じ事です。自白すると、私は自分でその男を宅《うち》へ引張《ひっぱ》って来たのです。無論奥さんの許諾《きょだく》も必要ですから、私は最初何もかも隠さず打ち明けて、奥さんに頼んだのです。ところが奥さんは止《よ》せといいました。私には連れて来なければ済まない事情が充分あるのに、止せという奥さんの方には、筋の立った理屈はまるでなかったのです。だから私は私の善《い》いと思うところを強《し》いて断行してしまいました。

     十九

「私はその友達の名をここにKと呼んでおきます。私はこのKと小供《こども》の時からの仲好《なかよし》でした。小供の時からといえば断らないでも解っているでしょう、二人には同郷の縁故があったのです。Kは真宗《しんしゅう》の坊さんの子でした。もっとも長男ではありません、次男でした。それであ
前へ 次へ
全371ページ中237ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング