名を聞きました。お嬢さんや奥さんの返事は、また極めて簡単でした。私は物足りない顔を二人に見せながら、物足りるまで追窮《ついきゅう》する勇気をもっていなかったのです。権利は無論もっていなかったのでしょう。私は自分の品格を重んじなければならないという教育から来た自尊心と、現にその自尊心を裏切《うらぎり》している物欲しそうな顔付《かおつき》とを同時に彼らの前に示すのです。彼らは笑いました。それが嘲笑《ちょうしょう》の意味でなくって、好意から来たものか、また好意らしく見せるつもりなのか、私は即坐に解釈の余地を見出《みいだ》し得ないほど落付《おちつき》を失ってしまうのです。そうして事が済んだ後で、いつまでも、馬鹿にされたのだ、馬鹿にされたんじゃなかろうかと、何遍《なんべん》も心のうちで繰り返すのです。
 私は自由な身体《からだ》でした。たとい学校を中途で已《や》めようが、またどこへ行ってどう暮らそうが、あるいはどこの何者と結婚しようが、誰《だれ》とも相談する必要のない位地に立っていました。私は思い切って奥さんにお嬢さんを貰《もら》い受ける話をして見ようかという決心をした事がそれまでに何度となくあ
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