《いっこう》記憶となって母の頭に影さえ残していない事がしばしばあったのです。だから……しかしそんな事は問題ではありません。ただこういう風《ふう》に物を解きほどいてみたり、またぐるぐる廻《まわ》して眺《なが》めたりする癖《くせ》は、もうその時分から、私にはちゃんと備わっていたのです。それはあなたにも始めからお断わりしておかなければならないと思いますが、その実例としては当面の問題に大した関係のないこんな記述が、かえって役に立ちはしないかと考えます。あなたの方でもまあそのつもりで読んでください。この性分《しょうぶん》が倫理的に個人の行為やら動作の上に及んで、私は後来《こうらい》ますます他《ひと》の徳義心を疑うようになったのだろうと思うのです。それが私の煩悶《はんもん》や苦悩に向って、積極的に大きな力を添えているのは慥《たし》かですから覚えていて下さい。
話が本筋《ほんすじ》をはずれると、分り悪《にく》くなりますからまたあとへ引き返しましょう。これでも私はこの長い手紙を書くのに、私と同じ地位に置かれた他《ほか》の人と比べたら、あるいは多少落ち付いていやしないかと思っているのです。世の中が眠る
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