三

「私が両親を亡《な》くしたのは、まだ私の廿歳《はたち》にならない時分でした。いつか妻《さい》があなたに話していたようにも記憶していますが、二人は同じ病気で死んだのです。しかも妻があなたに不審を起させた通り、ほとんど同時といっていいくらいに、前後して死んだのです。実をいうと、父の病気は恐るべき腸《ちょう》窒扶斯《チフス》でした。それが傍《そば》にいて看護をした母に伝染したのです。
 私は二人の間にできたたった一人の男の子でした。宅《うち》には相当の財産があったので、むしろ鷹揚《おうよう》に育てられました。私は自分の過去を顧みて、あの時両親が死なずにいてくれたなら、少なくとも父か母かどっちか、片方で好《い》いから生きていてくれたなら、私はあの鷹揚な気分を今まで持ち続ける事ができたろうにと思います。
 私は二人の後《あと》に茫然《ぼうぜん》として取り残されました。私には知識もなく、経験もなく、また分別もありませんでした。父の死ぬ時、母は傍にいる事ができませんでした。母の死ぬ時、母には父の死んだ事さえまだ知らせてなかったのです。母はそれを覚《さと》っていたか、または傍《はた》のものの
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