、神戸大阪の同人といつしよに、畑の梅林へ、梅やら雪やら、なか/\の傑作で、忘れられない追憶となるだらう、西幸寺の一室で句会、句作そのものはあまりふるはなかつたが、句評は愉快だつた、酒、握飯、焼酎、海苔巻、各自持参の御馳走もおいしかつた。
夕方私一人は豊中下車、やうやく愚郎居をたづねあてゝほつとした、例によつて酒、火燵、ありがたかつた。
雪は美しい、友情は温かい、私は私自身を祝福する。
[#ここから2字下げ]
・暮れて雪あかりの、寝床をたづねてあるく
・木の葉が雪をおとせばみそさゞい
・雪でもふりだしさうな、唇の赤いこと
・春の雪ふるヲンナはまことにうつくしい
・春比佐良画がくところの娘さんたち
・からたちにふりつもる雪もしづかな家
   追加一句
 みんな洋服で私一人が法衣で雪がふるふる
[#ここで字下げ終わり]

 三月九日[#「三月九日」に二重傍線] 愚郎居。

晴、雪はまだ消えない、春の雪らしくもなく降りつもつたものだ。
整理、裂く捨てる、洗ふ。
朝湯朝酒とはもつたいない、今日にはじまつたことではないけれど。
ほろよい人生[#「ほろよい人生」に傍点]、へゞれけ人生であつてはならない、酒、酒、肴、肴と御馳走責めにされた、奥さんの手料理はおいしい。
夜はSさん来訪、書いたり話したり笑つたり。
[#ここから2字下げ]
・火燵まで入れてもろうて猫がおさきに
   (愚郎居)
・雪あかりの日あかりの池がある畑がある
[#ここで字下げ終わり]

 三月十日[#「三月十日」に二重傍線]

比古君の厄介になる。
比古君は私にピタリと触れてくれる、うれしかつた。
奥さんに連れられて、大阪劇場で、松竹レヴユー見物、まことに春のおどり!
夜は新町でのんきに遊ぶ。
[#ここから2字下げ]
・こどもに雪をたべさしたりしてつゝましいくらし
・きたない池に枯葦の葉も大阪がちかい
・春風の旗がはた/\特別興行といふ
・うらはぬかるみの、女房ぶりの、大根やにんじん
・雲のゆききのさびしくもあるか
[#ここで字下げ終わり]

 三月十一日[#「三月十一日」に二重傍線]

ほつかり覚める。
新町のお茶屋の二階、柄にもない。
比古君が方々を連れ歩いてくれる。
汁といふ店で汁を食べた、さすがに大阪だと思つた。
夜はまた新町へ。

 三月十二日[#「三月十二日」に二重傍線] 曇。

ぶらつくうちに日が暮
前へ 次へ
全40ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング