、青葉若葉の青さ、せぐりおちる谷水の白さ、山つゝじの赤さ。
道は広くてよいけれど、山崩れがあつて道普請が初まつてゐる。
ほどなく山田温泉に着いた、まさに十二時、薬師堂があつて吉野桜が美しい。
山田温泉場はこぢんまりとして、きれいに掃き清められてゐる、そこがかへつて物足らないやうにも感じられる。
高井橋といふ吊橋も立派なものである。
バスが通う[#「う」に「マヽ」の注記]、一路坦々としてすべるやうに須坂へ向ふ、道ばたに蒲公英が咲きみだれてうつくしい。
子安橋、樋沢橋、千曲川が遙かに光つて見える、郭公が啼きつゞける。
途中、酒屋に寄つて一杯また一杯。
須坂まで三里、さらに西風間まで三里、バスも電車も都合よくないので歩く。
晴れそうであつたが降つて来た、小雨だから濡れるままに濡れる。
妙高、黒姫、戸穏[#「穏」に「マヽ」の注記]の山々が好きな姿を見せたり消したりする。
千曲川を渡る、村上橋は堂々たるものである、もう長野は遠くない。
やうやく北光居をおとづれる、すぐ着換へさせて下さる、手織木綿らしいぎこちなさが却つて温情と質実とを与へる、やれ/\よかつた/\ありがたい/\。
(今日は強行で十里近く歩いたのである)
再び信州に入つて上野をふりかへると、そこに多少の感想がある――
上洲[#「洲」に「マヽ」の注記]から信州へはいつてくると明るくなつたやうだ(白根から万座峠を下つて)、概して道がよろしい、道標がしんせつに建てゝある、旅人はよろこぶのである。
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青く明るく信濃の国はなつかしきかな
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秋山部落の話(北光君から聞く)
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平家の残党――秋山美人――
(離れておくれてゐたのが現今では最も新らしい)
――東京へ女給として進出、モダンガール。
(信濃から越後へ)
・こゝから越後路のまんなかに犬が寝てゐる(関川にて)
・ゆれてゐるかげは何の若葉をふむ
・飲んで食べて寝そべれば蛙の合唱(迂生居即事)
・首だけある仏さまを春ふかき灯に( 〃 )
・ガラス戸へだてて月夜の花が白い( 〃 )
・めづらしく棕梠が咲いてゐて少年の夢(追憶)
・砂丘のをんなはをなごやのをんなで佐渡は見えない(日本海岸)
柏原にて
・ぐるりとまはつてきてこぼれ菜の花(土蔵)
・若葉かぶさる折からの蛙なく(墓所)
・孫のよな子
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