てゐる
[#ここで字下げ終わり]
などゝ俳句する、まだ小学二年なのに。
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ひさしぶりの話がつきない夜の雨になり
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三月廿八日[#「三月廿八日」に二重傍線] 曇。
身辺整理。
坊ちやんお嬢さん同行で、木曽川あたりへ遊ぶ、お辨当に家人の心づくしがこめられてゐた、酒――それは私にだけの――には殊に。――
鈴鹿山がひかる、伊吹山も。
風が出た、風は何よりもいつも寂しい。
めづらしいよい遊びの一日ではあつた。
三月廿九日[#「三月廿九日」に二重傍線] 晴。
朝酒はありがたすぎる。
私を[#「を」に「マヽ」の注記]旅に出て来て、もつたいないと思ふ。
私は私の友の友情に値しないことを私みづからよく知つてゐる。
津島地方の産物は毛織物と蕗、面白い取合である。
濃美[#「美」に「マヽ」の注記]平野はうらゝかだつた。
午后、漁君と同道して、蓴蓮亭を訪ふ、夜は句会。
例によつて飲みすぎる、しやべりすぎる。
三月三十日[#「三月三十日」に二重傍線] 晴。
きしめん――名古屋名物の一つといはれる揚豆腐をあしらつたうどん――を御馳走になる。
それから秋彦君と共に林五舎へ。
森有一君はほんたうに好きな友人だ。
ヱロ貝! その御馳走もよかつた。
秋彦君去り武朗君来る。
夜おそくまで話しつゞけた、そして睡つた、安らかに睡つた。
林五君よ、幸福でありたまへ。
三月三十一日[#「三月三十一日」に二重傍線] 晴、春寒、薄氷が張つてゐた。
徳川園観賞。
二時の汽車で浜松へ。――
浜松は津とも違つて、おちついた都会である。
平野小児科医院、そこに多賀治君が待つてゐて下さつた。
二階の病院の一室を私の部屋として提供された、高等下宿にでもゐるやうで、身も心もくつろいだ。
四月一日[#「四月一日」に二重傍線] 快晴。
御馳走々々々。
散歩、休養、通信。
私は自殺未遂者だ。
短かいやうな長いやうな一生。
多賀治さんとは初対面だけれど、親しい間柄である。
よい夫でありよい父であり、そしてよいドクトルである多賀治君を祝福する。
四月二日[#「四月二日」に二重傍線] 曇。
春雨しと/\。
永井さん来訪、野蕗君徃訪。
多賀治君の住宅にも寄つて奥さんに挨拶する、新居普請中。
看護婦さんと相乗で辨天島へ一路ドライヴする、かへりみてブルジヨアすぎる。
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