まい料理を食べた、そして、それから、……それから、そして、……地極[#「極」に「マヽ」の注記]々々!
六月一日 晴、螻子居。
身心混沌として我と我を罵るのみ、――といつたやうなていたらく!
螻子居の厄介になる、昼酒、晩酌、読書、雑談、散歩、螻子君と共に一日一夜たのしく暮らした。
今日は野の川で水浴した、多少身心がさつぱし[#「ぱし」に「マヽ」の注記]た。
六月二日 柊屋、晴、曇。
そんなことはどうでもよい、澄太君夫妻の温情につゝまれてゐた。
S氏K氏の邸宅に押しかけて短冊を売りつけた、あゝ不快、不快、不快。……
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澄太居雑詠
よい酒でよい蛙でほんに久しぶり
雨ふる古い古い石塔が青葉がくれに
青葉をへだててお隣は味噌でも摺るらしい音
柊のあを/\としておだやかなくらし
朝の鏡の白い花のかげ
蛙ひとしきりそれからまた降る
□
海は曇つて何もない雨
つんばくろよいつしよにゆかう
[#ここで字下げ終わり]
六月三日 晴。
七時出立、己斐まで電車、そこから歩くつもりだつたが、酒づかれ[#「酒づかれ」に傍点]でまた電車で宮嶋へ、青葉の紅葉谷公園はよかつたけれど、I旅館へ短冊売にいつて気持が悪くなつたので、早々海を渡つて汽車に乗り込んだ、麻里布で下車、人絹会社のM氏を訪ねる、黙壺君からの紹介があるので気持よく五六枚買うて貰ふ。
何とかいふ安宿に泊る、何だか変な家だ。
夜はバスで岩国へ出かけた、錦帯橋の上で河鹿に聞き入つた、さびしいがよい夜であつた。
六月四日 晴、M居。
起きるより酒屋へ駈けつけて一杯また一杯。
岩国の町へはまはらないで愛宕村を歩いた、山のみどりがめざましい、おゝ、あの山がそれか、あの山林で弟は自殺したのか、弟よ、お前はあまりに弱く、そしてあまりに不幸だつたね!
藤生から汽車で柳井へ、バスで伊保庄へ、Mさんに面接する、白船君を通して知つてはゐたけれど、旧知の友達のやうな気がした、話すほどに飲むほどに酔うてしまうてすゝめれ[#「めれ」に「マヽ」の注記]るまゝに泊めてもらつた。
近来にない楽しい対酌であつた。
六月五日 晴。
朝から酒、それもよろしい(Mさんのところは造り酒屋で、Mさんはその主人で、しかもさうたうの左党だ)、お土産として生一本を頂戴する、酒銘として幾山河[#「幾山河」に傍点]は好いでないこと
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