ものだと思ふ。
○自己に徹することが自然に徹することだ[#「自己に徹することが自然に徹することだ」に傍点]。
 自然に徹するとは空の世界[#「空の世界」に傍点]を体解[#「解」に「マヽ」の注記]することである。
[#ここで字下げ終わり]

 七月六日[#「七月六日」に二重傍線] 雨。

……いつのまにやら、どうしてやら、ちやんと帰つて来て寝てゐた。……
今日も山口へ行く、ハイカイコジキだ、つらいね。
W君もH君もN君も不在、H君には逢へた、小学校はよいな、参観してゐると涙ぐましくなる。
湯田はよいとこ(たゞ温泉がある故に)、酔うてとうたうS屋に泊る、いやなおかみさんだけれど、宿そのものは悪くない。
おかげでぐつすり、ほんにぐつすり睡れた。

 七月七日[#「七月七日」に二重傍線] 曇――雨。

朝酒は止めて、一浴して歩いて帰つた。
日支事変一周年、正午のサイレンと共に黙祷、あゝ……あゝ。
夕方、樹明君と敬君と同道して来庵、うれしかつた、酒とビフテキとの御馳走を頂戴する、内證内證!

 七月八日[#「七月八日」に二重傍線] 雨――曇。

早すぎるけれど早く起きた、短夜がまだ長すぎる、年はとりたくないものだ、朝酒の御馳走をいたゞく。
落ちついて読書。
欝欝たへがたくして、――酒まで苦い!

 七月九日[#「七月九日」に二重傍線] 晴。

朝寝だつた、霄[#「霄」に「マヽ」の注記]れわたつた大空を昇る太陽!
いよ/\梅雨もあがつたらしい、暑くなつた、すこしぢたばたすると汗びつしよりになる、いよ/\夏だ。
旅、旅、行乞、行乞、山頭火、山頭火。
愛国婦人会の本部から来信、傷病将士慰安のために書画展覧会を開催するから、彩筆報国の意味で寄贈せよとの事、私は喜んで、ほんたうに喜んで寄贈する、それだけでも私の自責の念はだいぶ救はれる、ありがたいと思ふ。
心も軽く身もかろく、あたりを整理する。
ちよつと街へ出かけて、米と油を買ふ。
もう裸がよくなつた、裸で勉強する。
まつたく不眠、蛙のコーラスも悪くないな。

 七月十日[#「七月十日」に二重傍線] 晴――曇――雨。

未明起床、夜が朝となる景象を観賞する、不眠の余得とでもいはうか。
早朝、訪問者があつて、風呂の売物はないかと訊ねる、それも面白かつた。
今日も好晴(夕方くづれたけれど)、炎天らしくなつて照りつける、私は冬が嫌ひなだけ夏が
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