い。店番をしながら、店頭装飾を改める。貧弱な商品を並べたり拡げたり、額椽を出したり入れたりする。自分の欠点が嫌というほど眼について腹立たしい気分になるので、気を取り直しては子と二人で、栗を焼いたり話したりする。久し振りに栗を食べた。なかなか甘い。故郷から贈ってくれたのだと思うと、そのなかに故郷の好きな味いと嫌な匂いとが潜んでいるようだ。
午後、妻子を玩具展覧会へ行かせる。久々で母子打連れて外出するので、いそいそとして嬉しそうに出て行く。その後姿を見送っているうちに、覚えずほろり[#「ほろり」に傍点]とした。
下らない空想をはらいはらい、仕入の事や、店頭装飾の事を考える。――絵葉書とか額椽とか文学書とかいうものは、陳列の巧拙によって売れたり売れなかったりする場合が多い。同業者の一人が「我々の商品は売れるもの[#「売れるもの」に傍点]でなくて売るもの[#「売るもの」に傍点]である」といったそうであるが、実に経験が生んだ至言である。米屋や日用品店なぞと違って、いつも積極的に自動的に活動していなければならない。始終中《しょっちゅう》、清新の気分を保っていなければならない。苦しい事も多い代り
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