なかつた、万歳々々!
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途上点描
   (旅日記ところ/″\)
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 五月六日[#「五月六日」に二重傍線]――十九日[#「十九日」に二重傍線]

――まるで地獄だつた。
酔うては彷徨し、※[#「目+星」、第4水準2−82−9]めては慟哭した、自己冒涜と自己呵責との連続であつた。
私は人非人だ、Hがいふやうに穀つぶし[#「穀つぶし」に傍点]だ。
Kに対して、Wさんに対して、何といふ背信忘恩であらう。
酒! あゝ酒のためだ、酒が悪いのではない、私が善くないのだ、酒に飲まれるほど弱い私よ、呪はれてあれ!
肉体的にはたうとう吐血した、精神的には自殺に面して悩み苦しんだ。
死、さうだ、死が最も簡単な解決、いや終局だ、狂、狂しうるほどの力もないのだ。
死、死、死、そして遂に死なゝかつた、死ねなかつた、辛うじて自分を取り戻した、そして……夜が――私の夜が明けたのである、幸にして(不幸にして、かも解らない)、私は私の私[#「私の私」に傍点]となつた。――

 五月廿日[#「五月廿日」に二重傍線] 曇。

門外不出。――
下の家から梯子を借りて来て屋根を繕ふ、漏つて漏つて堪へきれなくなつたのだ、梅雨季も近づいてくるが、葺替代がないのだ、あぶなかつた、足すべらして落ちさうだつた。
日本案内記を読みつゞけて、旅したい心をなぐさめる。
珍らしいお客様があつた、Tさんが二人連れでやつてきて、静寂に感心して帰つていつた。
多々桜君の死[#「多々桜君の死」に傍点]は私に堪へがたい痛恨をもたらした、奥さんからの通知に接した時、私は脳天を撃ちのめされたやうなシヨツクを感じた、過ぐる三月にお見舞してよかつた、あれは久しぶりの、そして最後の出会であつたが、あゝ、それにしても、死んではならない君は死んでしまうし、死ねばよい私は死なゝいでゐる、私は自然の矛盾[#「自然の矛盾」に傍点]とでもいひたいものを感じる、そして腹立たしくさへなる。……
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[#横組み]“Natural nonsense”[#横組み終わり]
雑草のたたかひ――
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荒地野菊のたくましさ
ポピーの弱さ
[#ここで字下げ終わり]

 五月廿一日[#「五月廿一日」に二重傍線] 晴。

横臥読書、すまない、すまない、すみません。
除[#「除」に「マヽ」の注記]
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