五年の悔だけが残つてゐる。
身のまはり家のまはり、きたない、きたない。
暑苦しい日々夜々。
午後、樹明君に招かれて宿直室へ出かける、久しぶりに、ほんたうに久しぶりだつたが、かなしいかな、彼は飲めない、衰弱した様子が気の毒とも何ともいへない、すまないけれど私だけ飲んだ、駅辨も御馳走だつた。
寝物語がいつまでも尽きなかつた。
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孤独は求むべきものではない、求めてはならない、太陽は孤独だといつて威張る人がある、負け惜しみは止したがよい、人間は星屑のやうに[#「星屑のやうに」に傍点]在るべきものである。
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七月三十日[#「七月三十日」に二重傍線] 晴。
早朝帰庵。
今日も身辺整理。
歯痛、樹明君の盲腸と私の歯[#「樹明君の盲腸と私の歯」に傍点]とはおなじやうなものだ、共に役立たないもののために苦しみ悩まされる。
暑い/\。
久しぶりに落ちついて晩酌、しきりにKの事を考へた。
誰もみんな幸福であれ。
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邪気を吐きつくせば邪気なし、この意味で時々泥酔することは悪くない、それは大掃除みたいなものだ。
彼の一生は逃避行の連続ではなかつたか!
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七月三十一日[#「七月三十一日」に二重傍線] 晴。
身心やうやく落ちつく。
久しぶりに味噌汁をこしらへる、うまかつた。
たよりいろ/\、うれしかつた。
山口へ行く、途中理髪する、気分がさつぱりした、バスに乗りおくれてガソリンカーにする、暑い暑い、青い青い、そして涼しい涼しい、愉快愉快。
誰も彼もアイスキヤンデーを食べる、現代風景の一齣。
湯田で一浴、ありがたいありがたい、バスで夕方帰庵。
夜はまた街へ出かける、飯、酒、女――人間、動物、何が何やら解らなくなつてしまつて、Jさんの宿舎に泊めて貰ふ。
はじめよろしくをはりわろし――これが私にあてはまる常套文句だ。
あさましい事実だ。
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△味噌汁と漬物。
△ルンペンの資格。
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食べないでも平気でゐること。
腐つたものを食べてもあたらないこと。
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いひかへると
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呆けた頭脳と痺れた心臓と[#「呆けた頭脳と痺れた心臓と」に傍点]。
そして何物をも受け入れる胃腸[#「そして何物をも受け入れる胃腸」に傍点]。
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