観よ[#「この月を観よ」に傍点]と叫びたかつた。
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 第五句集 柿の葉[#「柿の葉」に白三角傍点]
 山頭火と緑平と澄太との三重奏
△山緑澄――山の緑は澄む[#「山の緑は澄む」に傍点]、と読めば読まれる。
  (其中庵風景)
 月から柿の葉ひらり   山
 柿の葉おちこませてゐることか   緑
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 十二月廿九日[#「十二月廿九日」に二重傍線] 晴、時雨。

今日はよつぽどぬくかつた。
晴雨共によろし、寒くさへなければ(私は暑さには強い)。
庵主は般若湯が好き、いつも赤い顔して赤字で苦しんでゐる、山頭火よ、と自から嘲り自から慰める。
天地人に対してすまない[#「天地人に対してすまない」に傍点]、といつも私は思ふ、思ふだけで、それを実現することは出来ないけれど、――今日も強くさう思つた。
いやな鴉の鳴声が気にかゝつて困つた。
緑平老から年忘れの一封を頂戴した、すみません、すみません。
うまい昼食であつたが、さびしい昼食でもあつた。
夕方、農学校へ行く、樹明君宿直、御馳走になつて、ラヂオを聴いたりなどして泊る。
ぐつすりとよく睡れた。
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□凝心[#「凝心」に傍点]もよいが放心[#「放心」に傍点]もわるくない、若い時は心を凝らして求めるがよろしく、年をとつてはぼんやりと充ち足りてゐる貌がよい[#「充ち足りてゐる貌がよい」に傍点]。
□完成と未完成、人生は完成への未完成[#「完成への未完成」に傍点]である、生死去来はその姿である。
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 十二月三十日[#「十二月三十日」に二重傍線] 晴。

日本晴だ、霜がうらゝかだつた。
今年もいよ/\押しつまつて、余すところ一日となつた、私は忙しくはないけれど、あまりノンキでもない、年の瀬はやつぱり年の瀬だ。
朝寝して、御飯をよばれて、何やかや貰つて、十時近く帰庵。
おちついてつつましく、読んだり炊いたり、考へたり歌つたり、歩いたり寝たりして。――
鰤のうまさ、うますぎる!(先日貰つた残り)
午後は曇つて憂欝になつてゐるところへ、樹明君来庵、すぐ酒屋へ魚屋へ、Jさんも加はつて、第三回忘年会[#「第三回忘年会」に傍点]を開催した、酒は二升ある、下物はおばやけ、くぢら、ユカイだつた、おとなしく解散して、ほんにぐつすり寝た。

 十二
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