層雲」に傍点]、緑平老が大泉[#「大泉」に傍点]を送つてくれた。
酒があつて飯があつて[#「酒があつて飯があつて」に傍点]、そして寝床があつて[#「そして寝床があつて」に傍点]、ああ幸福々々[#「ああ幸福々々」に傍点]。

 十月七日[#「十月七日」に二重傍線] まつたく秋日和。

朝寝、寝床の中で六時のサイレンを聴いた。
今日も油虫を二匹、そしてまた二匹殺した、多分彼等は夫婦だつたらう、殺してから――殺さずにはゐられないから殺したが――気持の悪いこと。
日向の縁で本を読んでゐると、うつくしいパラソルが近づいてくる、ハテナと思つてゐると、さつさうとして山口の秀子さんがあらはれた、小郡駅まで来たので、ちよつとお伺ひしたといふ、其中庵も時ならぬ色彩で飾られた、しばらく対談、友達を訪ねるといふので(その友達は農学校の先生のお嬢さんで、そしてその宅は農学校の裏にあるので)、農学校まで同道して、樹明君に案内を頼んで戻つた、道すがら、人々が驚いてゐる、何しろ私が若い美しい女性と連れ立つてゐるものだから!
行乞しなければならないのだが(もう米がないのだが)、どうしても行乞する気になれない。
大根も山東菜も虫害で全滅! ああ。
秋海棠のまぼろし[#「秋海棠のまぼろし」に傍点]! それは私の好きな草花、そして、うれしいかなしい熊本生活のおもひで。
暮れてから、樹明君が学校の仕事を持つて来庵、投げ出された五十銭銀貨二枚を持つて、私は街へ出かけて買物――サケ(これはマイナスで)、トウフ、マツタケ、サカナ、シンギク、バンチヤ。
うまいちり[#「ちり」に傍点]だつた、うまいさけ[#「さけ」に傍点]だつた、おとなしくこゝろよく酔うて、ふたりともぐう/\、ぐう/\。
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   ミスH子をうたふ二句
・秋草のむかうからパラソルのうつくしいいろ
・秋空のあかるさに処女のうつくしさ
・釣糸の張りきつて澄んで秋空(魚釣)
・秋空たかくやうやく出来上つたビルデング
・日まわり陽を浴びてとろとろ
・近道は蓼がいちはやくもみづりて
・なんでとびつくこうろぎよ
・いちめんに実りたるかな瑞穂の国
 しめやかにふりだして松茸のふとる雨
[#ここで字下げ終わり]

 十月八日[#「十月八日」に二重傍線] 晴。

早起、まづ聴いたのは百舌鳥の声、視たのは蕎麦の花。
朝酒、ほろり/\と柿の葉が落ちる。
とても好いお天気、ぢつとしてはゐられないので出てあるく。
米は買へないから(一升三十二銭)食パンを買ふ(一斤十四銭)、そして行乞はしないのだ、こゝにも私のワガママがあるけれど、それが私のウマレツキだから、詮方もない。
今日は油虫を二度とも殺しそこなつた、かうまで油虫が憎いとは情なくなる。
Nさん来庵、恋愛談を聞かされる、かういふ話も時々は悪くない(度々では困るけれど!)。
やつと番茶が買へたので、それをすゝりながら話しつゞけた。
食パンが近来飲みすぎ食べすぎの胃腸をとゝのへてくれるとは。……
今夜は樹明君宿直なので、六時のサイレンが鳴つてから訪ねる、いつものやうに御馳走になる、思はず飲みすぎて酔つぱらつた、まつすぐに戻ればよいのに横道にそれてしまつた、戻ることは戻つたけれど、愚劣な自分を持てあました!
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其中漫筆

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  酔中戯作一首
あなた ドウテイ
わたくし シヨヂヨよ
月があかるい虫のこゑ
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   其中漫筆
□私俳句[#「私俳句」に傍点]とは――
□リアリズム精神
  自由、流動、気魂[#「魂」に「マヽ」の注記]。
[#ここで字下げ終わり]

 十月九日[#「十月九日」に二重傍線] 曇、寒い。

朝焼がうつくしかつた。
昨夜の自分を反省して、仏前にお詑びした。……
しつかりしろ山頭火! あんまり下らないぞ!
煩悩無尽誓願断。
自覚すれば、醜悪にたへないやうな自分を見出すことはあまりにあさましい、自分のよさ[#「自分のよさ」に傍点]をも自覚しなければ嘘だ(人には誰でもよさ[#「よさ」に傍点]がある、あらなければならない)。
曇つて風が吹く、まさに秋風だ。
断食(絶食とは意味違ふ)と読書と思索。
――同一の過失を繰り返すことが情ない、酔はない時はしないこと――したくないことを酔中敢てするから嫌になる、自己統制[#「自己統制」に傍点]を[#「嫌になる、自己統制[#「自己統制」に傍点]を」は底本では「嫌になる、自己統[#「、自己統」に傍点]制を」]失ふのである、酒に即して自己を批判すれば、酒を飲んでゐるうちに酒に飲まれるのが悲しいのである。――
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   其中漫筆
┌自己の生活認識
└社会の現実認識
          ┌知識
   
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