は悔いない、恥ぢない、私は腹立てない、マ[#「マ」に「マヽ」の注記]ガママモノといはれても、ゼイタクモノといはれても。……
□自己の運命に忠実であれ[#「自己の運命に忠実であれ」に傍点]、山頭火は山頭火らしく。
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   清丸さんに
・こゝのあるじとならう水仙さいた
・こゝに舫うてお正月する舳をならべ
   坊ちやん万歳
・霜へちんぽこからいさましく
 霜晴れの梅がちらほらと人かげ
・耕やすほどに日がのぼり氷がとける
 足音、それはしたしい落葉鳴らして(友に)
・みんないんでしまへばとつぷりと暮れる冬木
・ふけてひとりの水のうまさを腹いつぱい
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 一月十一日[#「一月十一日」に二重傍線] 晴、あたゝかい。

近頃の食物の甘さ――甘つたるさはどうだ、酒でも味噌でも醤油でもみんな甘い、甘くなければ売れないさうだが、人間が塩を離れて砂糖を喜ぶといふことは人間の堕落の一面をあらはしてゐると思ふが如何[#「人間が塩を離れて砂糖を喜ぶといふことは人間の堕落の一面をあらはしてゐると思ふが如何」に傍点]。
朝、浜松飛行隊へ入営出発の周二君を駅に見送る、周二君よ、幸福であれ。
前の菜畑のあるじから大根を貰ふ、切干にして置く、大根は日本的で大衆的な野菜の随一だ。
よい晩酌[#「よい晩酌」に傍点]、二合では足りないが三合では余ります。
うたゝね、宵月のうつくしさ。
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   周二君を送る三句
 落葉あたゝかう踏みならしつゝおわかれ
・おわかれの顔も山もカメラにおさめてしまつた
・おわかれの酒のんで枯草に寝ころんで
・甘いものも辛いものもあるだけたべてひとり
 枯草を焼く音の晴れてくる空
・枯木に鴉が、お正月もすみました
 送電塔が、枯れつくしたる草
 私の懐疑がけふも枯草の上
 時間、空間、この木ここに枯れた
[#ここで字下げ終わり]

 一月十二日[#「一月十二日」に二重傍線]

いつもより早く、六時のサイレンで起きる。
物忘れ[#「物忘れ」に傍点]、それは老人の特権かも知れない、私も物忘れしてはひとりで微苦笑する。
餅と酒とを買ふ、餅もうまいし酒もうまい。
酔うた、酔うたよ、二合の酒に。……
夜はさびしい風が吹きだした、風がいかにさびしいものであるかは孤独生活者がよく知つてゐる。
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・雑草よこだは
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