に二重傍線]

長大息。――

 十一月四日[#「十一月四日」に二重傍線]

樹明来。
石油がなくなつた。

 十一月五日[#「十一月五日」に二重傍線]

米がなくなつた。

 十一月六日[#「十一月六日」に二重傍線]

傷いた椋鳥のやうに。

 十一月七日[#「十一月七日」に二重傍線]

樹明来、酒と魚とありがたし。
[#ここから2字下げ]
・ほんに秋日和の、つるんでゐる豚
・焼跡に日が射してがらくた
・そよぎつつ草枯れる水音
[#ここで字下げ終わり]

 十一月八日[#「十一月八日」に二重傍線] 九日[#「九日」に二重傍線]

一人、月がよかつた。
茶の花が咲いてゐる、なんでかなしいのだ。
熟柿を食べる。

 十一月十日[#「十一月十日」に二重傍線]

病中老吟一句――
[#ここから3字下げ]
はひあるく秋蝿のわたくし
[#ここで字下げ終わり]
Aさん来庵、お土産として酒肴たくさん。
湯田へ連れて行つて貰つた、ほどよく酔うてM旅館にいつしよに泊めて貰つた。

 十一月十一日[#「十一月十一日」に二重傍線] 日本晴。

Aさんの厚情に感謝しないではゐられない。
山口散策。
りんだう、野菊、秋草がうつくしい。
夜は酒を持つて宿直室の樹明君を訪ふ。

 十一月十二日[#「十一月十二日」に二重傍線] 曇。

寒くなつた、草が枯れるばかり。
ホントウがウソになつたり、ウソがホントウになつたり、澄んだり濁つたり。――

 十一月十三日[#「十一月十三日」に二重傍線]――廿一日[#「廿一日」に二重傍線]

死なないでゐるだけだつた!

 十一月廿二日[#「十一月廿二日」に二重傍線] 曇。

冬がいよ/\近寄つて来た。
山口句会へ。
身辺整理、私は dead rock を乗り越えることが出来たゞらうか。

 十一月廿三日[#「十一月廿三日」に二重傍線] 晴――曇。

落葉しつくした柿の木、紅葉してゐる櫨の木。
父、母、祖母、姉、弟、……みんな消えてしまつた、血族はいとはしいけれど忘れがたい、肉縁はつかしいがはなれなければならない。……

 十一月廿四日[#「十一月廿四日」に二重傍線] 曇。

しぐれ、冬らしい寒さ、火燵の仕度をする。
腹いつぱい麦飯を食べた。
片隅の幸福[#「片隅の幸福」に傍点]が充ち満ちてゐるではないか。
Tさんだしぬけに来庵、酒を貰ふ、句集を買つて下さつた。
前へ 次へ
全93ページ中92ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング