いつぞや酔中F喫茶店で出逢つた人である。
寝苦しかつた、妙な夢を見た。
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・花のこぼるゝ萩をおこしてやる
・野分あしたどこかで家を建てる音
・からりと晴れて韮の花にもてふてふ
・歩けるだけ歩く水音の遠く近く
・燃えつくしたるこゝろさびしく曼珠沙華
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九月廿六日[#「九月廿六日」に二重傍線] 晴、時々曇つてはしぐれる。
朝寝した、寝床から出ないうちに六時のサイレンが鳴つた。
午後、近在を散歩する、三里ぐらゐは歩いたらう、途中で、軽い狭心症的発作が起つた。
帰つてくると、誰やら来てゐる、昨日の中村君だ、縁側で文芸談、等々。
花めうが[#「花めうが」に傍点](?)が最初の花をつけた、まことに清楚なすがたである、これをわざ/\持つてきて植ゑてくれた黎坊に報告して喜ばせなければなるまい(一昨春)。
気取るな[#「気取るな」に傍点]、気構へを捨てろ[#「気構へを捨てろ」に傍点]!
夜中、行李から冬物をとりだすとき、油虫七匹ほどたゝき殺した、そしてそれが気になつて、とりとめもない事を考へつゞけた、何といふ弱虫だ、私は油虫よりも弱い。
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・咲きつづく彼岸花みんな首を斬られてゐる
うつくしい着物を干しならべ秋晴れ
・百舌鳥が鋭くなつてアンテナのてつぺん
・風のつめたくうらがへる草の葉
・秋晴れて草の葉のかげ
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九月廿七日[#「九月廿七日」に二重傍線] 晴。
朝寒、米磨ぐ水がやゝつめたく、汲みあげる水がほのかにあたゝかい。
夏物をしまうて冬物をだす、といつたところでボロ二三枚だが。
今日も午後は近在散策。
過去をして過去を葬らしめる[#「過去をして過去を葬らしめる」に傍点]、――それが観念としてでなく体験としてあらはれてきた[#「それが観念としてでなく体験としてあらはれてきた」に傍点]。
夕方、樹明君が酒と肴とを奢ることになつて用意してゐると、敬君がまた酒と肴とを持つて来た、三人楽しく飲み且つ語る、過去の物語が賑つた、十時近くなつて快く散会、近来うれしい会合だつた、ぐつすり前後不覚の睡眠がめぐまれた。
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其中漫筆
□こんにやく[#「こんにやく」に傍点]といふもの
(豆腐に対比して)
□物事をアテにすることは、あんまりよくない
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