のために般若心経講義(高神覚升[#「升」に「マヽ」の注記]師)を取寄せて、送つて下さつた、感謝以上のものである。
こほろぎの声がだん/\鋭くなる。……
午後、街へ出て、種物、染粉、柿渋などを買ふ。
今日もY酒屋のSちやんがやつてきた(昨日も留守中に来たさうである)、若い人には若い人としてのよさがある、しつかりやりたまへ。
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   其中漫筆
   必然性(歴史的)
現実            文学
   可能性(社会科学的)
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 九月廿一日[#「九月廿一日」に二重傍線] 雨、彼岸。

見わたすと、柿がだいぶ色づいた、柿がうれてくるほど秋はふかくなるのだ。
秋蝿の、いや、私の神経過敏に微苦笑する。
つくつくぼうしの声も弱々しくなつて、いつともなく遠ざかつてゆく。
今日の買物は、――鯖一尾十銭、胡瓜一つ三銭、そして焼酎一合十銭也。
今日の幸福[#「今日の幸福」に傍点]二つ、――般若心経講義を読んだこと、晩酌がうまかつたこと。
夕方、見馴れない人が来たと思つたら、国勢調査の下調査だつた、私のやうなものでも、現代日本人の一人であるに相違ない。
かまきりが、きり/″\すが、座敷へあがつてくる、やがてこうろぎもあがつてくるだらう。
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   其中漫筆
独酌の味。
対酌の味。


母、――盗癖、――裸――梨の木。
子、――一銭、――嘘――真実。
田舎をまはる昔ながらの琵琶法師[#「琵琶法師」に傍点]。
村のデパート[#「村のデパート」に傍点]。
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 九月廿二日[#「九月廿二日」に二重傍線] 曇。

二百三[#「三」に「マヽ」の注記]十日もまづ無事で珍重々々。
百舌鳥の声が耳につくやうになつた。
子供が竹刀を揮つて曼珠沙華をばさり/\と撫斬りしてゐる、私にもさういふ追憶がある、振舞はちと残酷だけれど、彼等の心持にはほゝゑましいものがある。
ゴム長靴を穿いて、バケツを提げて、豆腐買ひに出かける、自分ながら好々爺[#「好々爺」に傍点]らしく感じる。
今晩は晩酌なし、やりたくないのぢやない、やりたいのだけれどやれないのだ、むりにやるには及ばない。
やうやく雲がきれて夕日が射してきた。
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   其中漫筆
何をたべてもおいしく[#「何をたべてもおいしく」に傍点]、何を為てもおもし
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