下げ終わり]
十一月三十日[#「十一月三十日」に二重傍線] 快晴、降霜結氷。
友と本[#「友と本」に傍点]とを待つ。
待つてゐた本がきた、冬ごもりの読物として広島のGさんに頼んでおいたのである、Gさん、ほんとにありがたう。
街へ出かけて買物いろ/\――うどん、葱、豆腐、醤油、等々。
樹明君を学校に徃訪する、澄太君、黎々火君の来庵を伝へる、残念ながら宿直だから出られないといふ、その顔のほがらかなのはうれしかつた。
あれやこれやといそがしい、待つ身のつらさをあまり味はせないで、暮れないうちに、澄太君がきてくれた、酒と豆腐とを持つて。――
飲む、話す、食べる、笑ふ。
暮れて黎々火君もやつてきた、さらに飲む。
三人で豆腐七丁、うどん五玉、酒は五合ばかり。
炬燵をこしらへて、いつしよに寝た。
まことにうれしい一夜だつた。
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友と本とを待つ日
・待つ日の炭火かさなつておこるなり
哀悼一句、仙波さんに
・こゝろしづかに小鳥きてなく香をたく
楢の枯葉の鳴るのも人を待つゆふべは
・明けはなれる山の線くつきりと送電塔
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十二月一日[#「十二月一日」に二重傍線] 曇、后晴。
五時の汽車へ黎々君を送る、そして二人は湯田へ行く。
朝酒のうまさが朝酒[#「酒」に「マヽ」の注記]のあたゝかさで、とけて流れる、すぐ戻つてきて、何もかも雑炊にして腹いつぱい食べて、そして別れた、がつかりして炬燵をかゝえて寝る。
昨夜のにぎやかさ、今夜のしづけさ、それもよし、これもよし。
樹明君、夜警から来て泊る。
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湯田温泉にて、澄太君に
・からだながしあふあつい湯がわいてあふれて
・しめやかに今日がはじまる煙ひろがる
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十二月一日[#「十二月一日」に二重傍線][#「十二月一日[#「十二月一日」に二重傍線]」はママ] 晴、めつきり冬らしくなつた。
庵には春秋はあるけれど、節季はなく、随つて正月もない、あるといへば、毎日が節季でも正月でもある。……
寒い、寒い、また風邪をひいたやうだ、終日炬燵にしがみついて読書。
樹明君来庵、香煎をすゝり、白菜新漬でお茶を飲んで別れる、めでたし/\。
今日、漬物を刻み[#「刻み」に傍点]つゝ、独身者はとかく自分の好尚に執しやすいことを感じた。
□酒好きが酒そのものに執することに罪はない、笑つて許せる、しかし酒をのむ方法手段が卑しくなるのは彼といふ人間の堕落だ、断じて許せない。――(感ずるところありて)――
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暮れいそぐ百舌鳥のするどく身にちかく
・冬がまたきてまた歯がぬけさうなことも
たえず鳴る汽車のとほく夜のふかく
・酔ひざめのつめたい星がながれた
・わかれようとしてさらにホツトウヰスキー
・しんみりする日の身のまはりかたづける
病中
・ほつかり覚めてまうへの月を感じてゐる
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十二月三日[#「十二月三日」に二重傍線] 曇、雪もよひ。
第五十二回の誕生日[#「第五十二回の誕生日」に傍点]だ、一杯やらなければなるまい、自祝の、或は自弔の意味で!
濁酒はうまいな、冬はこれに限ります。
独酌一本、感慨無量。
樹明君招待、酒は亀齢、下物は茹葱と小鰕、ほうれん草のおひたし、鰯の甘漬。……
思ひがけなくT子さんがやつてきた、一升罎を抱へてゐる、酒はいよ/\豊富だ、酒さへあれば下物なんか何でもよい。
愉快に飲んで酔ふ、街へその愉快を延長して、鮨を食べたり、コリントゲームを遊んだり、例の女を相手に飲んだり、……ホツトウヰスキーでおわかれ。
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・つかれてもどつてひなたの寒菊
・いちにち風ふき誰もこない落葉する
・悔いるこゝろに日がてり小鳥きてなくか
・霜晴れ澄みわたるほどに散るは山茶花
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十二月四日[#「十二月四日」に二重傍線] 冬ぐもり。
身心何となく快い。
しんみりする日だ。
夜はひとり出かけて飲んだ、そして泊つた、酒はよくなかつたが宿はよかつた。
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多賀治第二世かさねて出生、そのよろこびを私もよろこびて
・霜あしたうまれたのは男の子
・お日さまのぞくとすやすや寝てゐる
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十二月五日[#「十二月五日」に二重傍線] 晴、疲労、倦退、悔恨。
やつぱり昨夜の酒はよくなかつた、私はさういふ酒を飲んではならない。……
入浴して不快を洗ひ落す。
風のさわがしい一日だつた、私はしづかに落ちついてゐた。
ちしや苗を植ゑつける、ふるさとをたべる砂吐流[#「ふるさとをたべる砂吐流」に傍点]を思ひだして、ハガキを出す。
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・松葉ちる石に腰かける
・藪から出てくる冬
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