気でございます、……と思うてゐるうちに、曇つて寒くなつた、近く雨か雪であらう、それでよろしい、今年もはや暮れようとしてゐる。
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Fの家族が、馬まで連れて、前畑へきた、枯蔓燃やしたり、土を耕やしたり、何のかのと話したり、……その睦まじい協力労作を見聞して、私のふさぎの虫[#「ふさぎの虫」に傍点]がすこしやはらげられる。……
寂しがるのではないが、親しい友達といつしよに、湯豆腐ででもしんみり一杯やりたいなあと思ふ。
街へ出たついでに、石油代を掛にして貰つて、その金で、濁酒一杯ひつかけて例の虫[#「例の虫」に白三角傍点]をなぐさめ、うどん玉を買うて戻る、それが昼飯。
いつぞや見つけておいた路傍の水仙を採つてくる、まだ蕾はかたいけれどお正月までには開くだらう。
水仙は尊い花[#「水仙は尊い花」に傍点]である。
案外早く、暮れないうちから降りだした、そしてまた直ぐ止んだ、いやにぬくいことである。
今夜も寝苦しかつた、ヘンリライクロフトの手記をやうやく読みをへて、ワルデンを読みはじめる、どちらも私の愛読書として興味がふかい。
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「落葉抄」
小春なごやかな屋根をつくらふ
・小春日和の豆腐屋の笛がもうおひるどき
・おしつこさせる陽がまとも
・人も藁塚もならんであたたか
・落葉が鳴るだらう足音を待つてゐる(敬坊に)
・建ていそぐ大工の音が遠く師走の月あかり
・冬ごもりの袂ぐさのこんなにも
・あのみちのどこへゆく冬山こえて(再録)
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「ぐうたら手記」素材
□したいことはいろ/\あるけれど、しなければならないことはあまりない、さてもノンキな年の暮ではある。
□性慾がなくなると、むなしいしづけさ[#「むなしいしづけさ」に傍点]がやつてくる、食慾がなくなると、はかないやすけさ[#「はかないやすけさ」に傍点]がやつてくる。
□後光[#「後光」に傍点]のさす人物、余韻余情のある生活。
□単純――率直――真実、それが私の生活でなければならない。
□私も私自身について[#「私自身について」に傍点]アケスケに話したり書いたりすることが出来るやうになつた、自他共に隠さず衒はず、佞らず飾らない私達でなければならない。
□朴念人――妙好人。
□物忘れ[#「物忘れ」に傍点]、それは
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