のものに執することに罪はない、笑つて許せる、しかし酒をのむ方法手段が卑しくなるのは彼といふ人間の堕落だ、断じて許せない。――(感ずるところありて)――
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暮れいそぐ百舌鳥のするどく身にちかく
・冬がまたきてまた歯がぬけさうなことも
たえず鳴る汽車のとほく夜のふかく
・酔ひざめのつめたい星がながれた
・わかれようとしてさらにホツトウヰスキー
・しんみりする日の身のまはりかたづける
病中
・ほつかり覚めてまうへの月を感じてゐる
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十二月三日[#「十二月三日」に二重傍線] 曇、雪もよひ。
第五十二回の誕生日[#「第五十二回の誕生日」に傍点]だ、一杯やらなければなるまい、自祝の、或は自弔の意味で!
濁酒はうまいな、冬はこれに限ります。
独酌一本、感慨無量。
樹明君招待、酒は亀齢、下物は茹葱と小鰕、ほうれん草のおひたし、鰯の甘漬。……
思ひがけなくT子さんがやつてきた、一升罎を抱へてゐる、酒はいよ/\豊富だ、酒さへあれば下物なんか何でもよい。
愉快に飲んで酔ふ、街へその愉快を延長して、鮨を食べたり、コリントゲームを遊んだり、例の女を相手に飲んだり、……ホツトウヰスキーでおわかれ。
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・つかれてもどつてひなたの寒菊
・いちにち風ふき誰もこない落葉する
・悔いるこゝろに日がてり小鳥きてなくか
・霜晴れ澄みわたるほどに散るは山茶花
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十二月四日[#「十二月四日」に二重傍線] 冬ぐもり。
身心何となく快い。
しんみりする日だ。
夜はひとり出かけて飲んだ、そして泊つた、酒はよくなかつたが宿はよかつた。
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多賀治第二世かさねて出生、そのよろこびを私もよろこびて
・霜あしたうまれたのは男の子
・お日さまのぞくとすやすや寝てゐる
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十二月五日[#「十二月五日」に二重傍線] 晴、疲労、倦退、悔恨。
やつぱり昨夜の酒はよくなかつた、私はさういふ酒を飲んではならない。……
入浴して不快を洗ひ落す。
風のさわがしい一日だつた、私はしづかに落ちついてゐた。
ちしや苗を植ゑつける、ふるさとをたべる砂吐流[#「ふるさとをたべる砂吐流」に傍点]を思ひだして、ハガキを出す。
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・松葉ちる石に腰かける
・藪から出てくる冬
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