であるが、庵もこの季節に於てそのよさを最もよくあらはす、清閑とは其中庵の今日此頃の風趣である。
こんなにからだぐあいが悪いのは、一生の酒[#「一生の酒」に傍点]を飲みすごしたからだらう。
△流転する永遠の相[#「流転する永遠の相」に傍点]、永遠が流転する相[#「永遠が流転する相」に傍点]。
私は身辺風景をうたふ、雑草を心ゆくばかりうたひたい。
今夜も不眠で、詮方なしに徹宵句作。
△いはゆる枯淡にはその奥がまだある、水のやうに流れるものは常に新らしい。
△「生死は仏の御命なり」何といふ尊い言葉であらう、生も死も去も来も仏のはたらき[#「仏のはたらき」に傍点]である、それは人間の真実である、人間の真実は仏作仏行である。
△生活の句とは[#「生活の句とは」に傍点]――
句は無論生活から遊離[#「遊離」に傍点]して作られたものであつてはならない、生活に即して、否、生活からにじみでた句[#「生活からにじみでた句」に傍点]でなければならない、生活の表皮や生活断片そのままの叙述は句ではない、日記の一節であり、感想の一端に過ぎない、生活そのものの直接表現[#「生活そのものの直接表現」に傍点]、自然現象を通して盛りあがる生活感情[#「自然現象を通して盛りあがる生活感情」に傍点]、そのどちらも生活の句[#「生活の句」に傍点]である。
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質入して
・けふから時計を持たないゆふべがしぐれる
・ちよつとポストまで落ちる葉や落ちた葉や
父子対面―飯塚に健を訪ねて―
・このみちまつすぐな、逢へるよろこびをいそぐ
・煤煙、騷音、坑口《マブ》からあがる姿を待つてゐる
・話しては食べるものの湯気たつ
・分けた髪もだまりがちな大人《オトナ》となつてくれたか
(山田君の父となれるを賀して昌子嬢の誕生を祝して)
パパとママとまんなかはベビちやんのベツド
山々もみづるはじめて父となり
・けさは郵便も来ない風が出てきて葉をちらす
病中
・食べるものはあつて食べられない寒い風ふく
秋風の競売がちつともはづまない人数
祖母追懐
・おもひではかなしい熟柿が落ちてつぶれた
星城子君に
その鰹節をけづりつつあなたのことを考へつつ
[#ここで字下げ終わり]
十一月十九日[#「十一月十九日」に二重傍線] 晴、雨後のあざやかさ。
風が出てきた、風には何とも
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