る冬山のかさなれるかたち
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 十二月廿六日[#「十二月廿六日」に二重傍線] 晴、冬ぐもり、晴。

食慾がない、昨日の酒がまだ一升残つてゐるのに飲みたくない、弱くなるときにはかうも弱くなるものかと嘆きたくなる。……
午後、約束通りに山口の周二居へ出かける、君の入営送別句会を催ほすといふのである、句会といつたところで、家族の方々と会談して名残を惜しまうといふのである。
途中湯田温泉に浸る、飯蒸器を買ふ、温泉はよいかな、そして飯蒸器はありがたいかな(こんな器具でも手持のそれとの間にはいろ/\改良された個所がある、日進月歩といへば大袈裟だらうけれど、時々刻々進んでゆきつゝある時代を感じないではゐられない)。
糸米あたりの山々を眺めては休む、周二居についたのは五時前、酒はお断りしてライスカレーを頂戴する、暮れて樹明君も来会、奥さんやお嬢さん方もいつしよに句作する、そして最後は御馳走になる、まことにしめやかな会合ではあつた、私も甘やかされて健の話をした、息子自慢が出来るオヤヂではないのに! やうやく最終のバスで帰庵した、折からの月がまともに庵いつぱいのひかり、寝るには惜しいやうだつたが、ぐつすりねむれた。
人の情[#「人の情」に傍点]にうたる私[#「る私」に「マヽ」の注記]だつた!
今夜、周二居で、壺に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してあつた寒菊の白さがいつまでも眼に残つた。
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・こんなところに師走いそがしい家が建つ
・枯れつくして芭蕉葉は鳴る夜の片隅
・遠く鳥のわたりゆくすがたを見おくる
・寝しな水のむ山の端に星一つ
・あすはお正月の御飯をあたゝめてひとり
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 十二月廿七日[#「十二月廿七日」に二重傍線] 晴、曇。

霜が降つて氷が結んでゐる、冬の厳粛[#「冬の厳粛」に傍点]を感じる。
当分、酒を断つてぢつとしてゐよう、さうするより外ない私となつたから。
今日はポストまで出かける気力もなかつた。
庵中独坐、こゝろおのづから澄む[#「こゝろおのづから澄む」に傍点]。
今日の食物――うどん一玉、ぬくめ飯一碗、香煎一杯、餅二つ、饅頭三つ!
酒が飲めなくなつて菓子がうまくなる、木の実[#「木の実」に傍点]を味ふ、酒の執着がなくなつて貪る心[#「貪る心」に傍点]もなくなつ
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