た、裸体で水中を歩くのは愉快だつた、船のおかみさんが深切にも辨当を食べる用意をしてくれました。
帰途、酒と豆腐とを買つて(三人で買へるだけ、金九十五銭!)、ゆつくり飲んだ、それは「豆腐をたべる会[#「豆腐をたべる会」に傍点]」第一回でもあつた、とかうして七時解散。
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 とんぼふれても竹の皮のおちる
・とぶは萱の穂、おちるは竹の皮
・いつもの豆腐でみんなはだかで
 蝉なくやヤツコよう冷えてゐる
 したしさははだかでたべるヤツコ
・風はうらからさかなはヤツコで
・金借ることの手紙を書いて草の花
・朝蝉、何かほしいな
・夕蝉、かへつてゆくうしろすがた(黎々火君に)
・ともかくもけふまでは生きて夏草のなか
・ぽとりぽとり青柿が落ちるなり
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 七月九日[#「七月九日」に二重傍線]

晴、降ればよいのに、降りさうにもない。
甘草、またの名は忘れ草を活ける、百合よりも野趣がある。
蟻地獄といふもの、何だか気味悪い存在だ。
ちよつと街のポストまで、そしてちよつと一杯!
夕蝉なけばまた一杯やりたいな!
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・風がふきぬけるころりと死んでゐる(自弔)
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 七月十日[#「七月十日」に二重傍線]

晴、曇、夕立がきさうだつたが、バラ/\と落ちたゞけ。
昨日も今日も終日読書。
一杯やりたいが、それどころぢやない、一椀があやしくなつた!
周囲が(私自身も)コセ/\してゐるのが嫌になる、もつとユツタリとしたいものだ。
△……生きてをれば生きてをるがために、いひたくない事をいひ、したくない事をしなければならない、……生きてゐたくないと思ふ。
三八九復活の外はない、やつぱり謄写刷がよい。
肋膜の工合が変だ、うまく死ねないものか!
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・食べる物がない涼しい風がふく
・どうせもとのからだにはなれない大根ふとる
 生えて移されてみんな枯れてしまつたか
・酒と豆腐とたそがれてきて月がある
・青田風ふく、さげてもどるは豆腐と酒
・食べる物はあつて酔ふ物もあつて草の雨
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 七月十一日[#「七月十一日」に二重傍線]

晴、曇、晴、そして待ちに待つ手紙は来ない。
今日は食べる物がないから砂糖湯を飲む、そして胡瓜を食べる。
米屋は米を貸してくれない、酒屋は酒を飲ましてくれた!

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