かつた、馬鹿、阿呆、頓間、間抜。
死に[#「に」に「マヽ」の注記]も死ねないやうになりつゝあつたのだ、情ない。
樹明君が死にそこなつた私を案じて給仕をよこした、ありがたい志だつた。
△暴風一過の境地[#「暴風一過の境地」に傍点]である。
いぬころぐさを活ける、去年をすぐおもひだす、おどり子草も咲いてゐる、すぐまた一昨年のことをおもひだす。……
ぐみの実、草いちごの実、おもひでがあまりに多い。
虫が鳴く、こうろぎよ。……
虫が歩く、油虫だ。
△近眼と老眼とがこんがらがる、躓き易くなつて老を感じる。
………………………………………………………
[#ここから2字下げ]
・ま昼の花の一つで蝶々も一つで
・かどは酒屋で夾竹桃が咲きだした
・朝風の草の中からによこりと筍
・ゆふ空ゆたかに散りくるはあざみ
・ほんに草の生えては咲く(改作)
うらは藪で筍によきによき(其中庵風景)
・水田たたへてつるみとんぼがゆふ日かげ
・雲雀が空に親子二人は泥田の中
・鍋や茶碗や夜つぴて雨が洗つてくれた
かういふ句も
抱かうとして夜の雨ふる
[#ここで字下げ終わり]
六月廿三日[#「六月廿三日」に二重傍線]
昨夜もよく睡れなかつたので、何となく身心が重苦しいけれど、落ちついたことに間違はない。
学校に樹明君を訪ねて、先夜のお詑とお礼とをいふ、君はまつたく病人だつた、身心共に。
△酒はよいが、アルコールがいけないのだ、人そのものは申分ないのに意志が弱いのだ。
君よ、しつかりして下さい、私もしつかりと生活する。
空[#(ラ)]梅雨の暑苦しさ[#「空[#(ラ)]梅雨の暑苦しさ」に傍点]、それは私たちの身心のやうな!
放下着、そしてまた放下着。
行雲流水、無礙無作、からりとして生きて行け。
田植がはじまつた、毎日、朝から晩まで泥田を這うて働らく人々に対して、私は恥づかしく思はないではゐられない。
豚が食べてゐる、クン/\鼻を鳴らして――豚は食慾そのものであるやうに感じさせる、食べて肥えて、そして殺される豚だ。
雀の子がうまく飛べない、畦から畦へと餌をあさつてはゐるが――多分、彼はみなしご[#「みなしご」に傍点]だらう。
夕方、ばら/\と降つた、なか/\降らない梅雨だ。
風呂を飲んでしまつた、澄太君に申訳がない、どうでもかうでも風呂代だけは捻出して、その野風呂にはいつて貰はな
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