いつしよにあそぶ
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 六月三日[#「六月三日」に二重傍線]

霽れてゆく空や野や、雨後の朝景色はさわやかである。
野菜畑がいき/\としてきた。……
とても好い、そして暑いお天気になつた。
めうが一茎をぬすんできてたべる、めうがのかをりはよい。
T子さんがメカシて来た、今から掛取にゆくといふ、料理屋のカケがうまくとれるやうになれば、立派な一人前だ。
淡々君を待つ、今日来庵の通知があつたので、――もう、日が暮れるのに来てくれない、待ちきれなくなつて、学校に樹明君を訪れる(今日は宿直なのだ)、病状すぐれないと見えて欠勤、Cへ行つて酒一杯(四日目のアルコール注入だ)、ほろ/\として帰つてくると来客、来客――淡々君、そして耕三君。
暫らく会談、それから街へ、淡々君と私とはバスで湯田へ、耕三君は庵へ(どちらがお客だかわからない、そこが其中庵の其中庵たるところかもわからない!)。
湯田では飲んだ、飲んだばかりでなくフラウといつしよに寝た、しかし幸にして、或は不幸にして一夜だけの童貞であり、処女でありました!

 六月四日[#「六月四日」に二重傍線]

朝早く一杯浴びて一杯ひつかける、湯町の朝酒はまことにまことによろし。
淡々君の財布が軽くなつたらしい(私は財布を持つてゐないし、持つてゐても重い日のあつたことなし)、十時のバスで小郡駅まで、そこで私は眠り、君は去つた。
耕三さんは昨夜よく庵で寝てくれたらしい、酒と米とが置いてあつた、ありがたすぎて、あまりにすまなくて。……
さつそく飲む、食べる、そして寝る、あゝ、庵中極楽。
寝た、寝た、ぐつすりねむれた、労れて、ぐつたりして。
酒と女、人間と性慾――こんな問題が考へられてならなかつた。
女よりも酒[#「女よりも酒」に傍点]、酒よりも本[#「酒よりも本」に傍点]、――それが本音だ、私の、今の。
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・風をおきあがる草の蛇いちご
・鳴きつつ呑まれつつ蛙が蛇に
・雨をたたへてあふるるにういて柿の花
・霽れててふてふ二つとなり三つとなり
・いつでも植ゑられる水田蛙なく
・夏めいた空がはつきりとあふれる水

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   『性[#「性」に白三角傍点]慾と[#「と」に白三角傍点]いふ[#「ふ」に白三角傍点]もの[#「の」に白三角傍点]』
性慾といふものは怪物である。
人間が生きてゐる
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