の花はおもしろい。
蛇には親しめない、により[#「により」に傍点]と出てきてぎよつ[#「ぎよつ」に傍点]とさせる。
遊びすぎた、ちと勉強しよう。
夕方樹明来、今日はどうしても飲ましてくれといふ、からだのぐあいがわるくて酒でものまなければやりきれないといふ、すこし買うてきて飲む、彼もうまくないといふ、私もうまくない、何といつても健康第一ですよ。
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   寒山の路、拾得の箒
△酒も水もない世界、善悪、彼我、是非、利害のない世界、個も全もない世界。
それが極楽であり浄土である、いはゆる彼岸である。
水を酒とするのでなくて、酒が水となつた境地だ、酒は酒、水は水だけれど、酒と水とにとらへられない境涯、酒と水とに執しない生活だ。
こゝから、俳句、私の欣求する俳句は出てくる、私はさういふ俳句を作らうと念じてゐる。
個から出発して全に到達する道である、個を窮めて全を発見する道である。
我心如秋月――と寒山拾得は月を見て笑つてゐる。
[#ここで字下げ終わり]

 六月一日[#「六月一日」に二重傍線]

曇、糸瓜を植ゑる、おもての入口に、うらの窓の下に。
入浴、髯を剃る。
△放下着の放下――放下着を放下せよ。
△清貧清閑、竹葉微風。
三時頃、ヱプロン姿でT子さんがやつてきた、今日は酒と肴とを持参して、樹明君にも来て貰つて、ゆつくり飲むつもりだつたが、仕事が忙しくて手がひけないので、お断りにきたといふ、そして酒屋の方へまはらなかつたからといつて、五十銭銀貨一つを机に載せて帰つていつた、彼女もずゐぶん変り者だ、女としては殊に変つてゐる、夫もあり子もあり、そして料理屋兼業の旅館Mの仲居さんだが、ヒス的であることに間違はない(樹明君も妙な人間を其中庵訪問者として紹介したものである)、句作でもすると面白いのだが、まあ、文学好きの程度、或る意味では求道者といつてもよからう。
夕暮はいろ/\の鳥が啼くかな。
つゝましい一日だつた。

 六月二日[#「六月二日」に二重傍線]

曇、こんどこそ雨だらう、風が吹きだした。
草花を活ける、草花はどれもいつもよいなあ。
風、風、いやな風がふく、風ふく日の一人はいろ/\の事を考へる、――今日は自殺[#「自殺」に傍点]について考へた。
簡素[#「簡素」に傍点]、禅的生活、俳句生活は此の二字に尽きる。
純情[#「純情」に傍点]と熱意[#「熱意」
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