かし得ないとしたならば、彼女は女性として第一歩に於て落第してゐる、――私は気の毒に堪へなかつた、脱衣場の花瓶に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]された芍薬の紅白二枝の方がどんなにより強く私を動かしたらう!(私はまだ雑草のよさを味ふと同様に、女の肉体を観ることが出来ない、修行未熟ですね)
[#ここで字下げ終わり]
△俳人の夥多、そして俳句の貧困。
△ながいこと、ぶら/\うごいてゐた前歯(後歯はもうみんな抜けてしまつたが)がほろりと抜けた、抜けたことそのことはさびしいが、これでさつぱりした、物を食べるにもかへつて都合よくなつた(私自身が社会に於ける地位はその歯のやうではないかな)。
△ラツキヨウを食べつゝ考へる(私はラツキヨウが好きだ、帰庵して冬村君から壺に一杯貰つたが、もう残り少なくなつた)、人生はラツキヨウのやうなものだらう、一皮一皮剥いでゆくところに味がある、剥いでしまへば何もないのだ、といつてそれは空虚ではない、過程が目的なのだ、形式が内容なのだ、出発が究竟なのだ、それでよろしい、それが実人生だ、歩々到着[#「歩々到着」に傍点]、歩々を離れては何もないのが本当だ[#「歩々を離れては何もないのが本当だ」に傍点](ラツキヨウを人生に喩へることは悪い意味に使はれすぎた)。
たどんはありがたいかな、たどん一つのおかげで朝から夜まで暖かいものが食べられる、その火一つで、御飯もお湯もお菜も、そしてお燗も出来ます。……
今日の夕方はさみしかつた、人が恋しかつた、――誰か来ないかなあ、と叫びたかつた、いや、心の中では叫んだのである。
寝苦しかつた、一時から三時まで、やつとねむれた。
[#ここから2字下げ]
 うちの藪よその藪みんなうごいてゆふべ
・空は初夏の、直線が直角にあつまつて変電所
・閉めて一人の障子を虫がきてたたく
・影もはつきりと若葉
・ほろりとぬけた歯は雑草へ
・たづねあてたがやつぱりお留守で桐の花
・きんぽうげも実となり薬は飲みつゞけてゐる
・くもりおもくてふらないでくろいてふてふ
 この児ひとりこゝでクローバーを摘んでゐる
 摘めば四ツ葉ぢやなかつたですかお嬢さん(途上即事)
[#ここから1字下げ]
   断想
生活感情をあらはすよりも生活そのものをうたふのだ。
人生は、少くとも私の生活は水を酒にするのではなくて、酒が水にな
前へ 次へ
全47ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング