急いで帰庵することにする、八時出立、直方までは歩いた、それから折尾まで汽車、八幡まで歩く、門司まで汽車、下関へ汽船、それから黎々火居まで歩いて一泊、黎々火君の純情にうたれる。
私もいよ/\本格的癈人[#「本格的癈人」に傍点]になりさうだ、本格的俳句[#「本格的俳句」に傍点]が出来るかも知れない。
ヒダリはかなはなくても飲むことは飲める、水はなか/\酒にならない、酒は水になりやすいが。
酒と心中したら本望だ。
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・けさはおわかれの太陽がボタ山のむかうから(緑平居)
・よぼ/\のからだとなり水をさかのぼる
・驢馬にひかせてゆくよ春風
・枯草ふかく水をわたり、そしてあるく
・また逢へようボタ山の月が晴れてきた
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遠賀川風景
枯葦
雲雀の歌
放牧の牛の三々五々
霞うら/\
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あされば何かあるらしい鶏は鶏どち
焼芋やけます紙芝居がはじまります
旅のつかれのほつかりと夕月
・枯草の日向見つけて昨日の握飯
病めばをかしな夢をみた夜明けの風が吹きだした
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二月廿七日[#「二月廿七日」に二重傍線]
夜来の雨がはれて、何となく春だ。
七時の汽車に乗る、九時帰庵、其中一人のうれしさよ。
さつそく樹明君を訪問する、そして方々の借銭を払へるだけ払うてまはる。
酒を食べ鮨を食べる、酔うて寝る。
樹明君来訪、積る話は尽きなかつた。
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・こんなにつかれて日照雨ふる
・うらからはいればふきのとう
・ほろにがいのも春くさいふきのとうですね(緑平居)
誰も来ない月はさせどもふくらうなけど
利かなくなつた手は投げだしておく日向
げそりと暮れて年とつた
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二月廿八日[#「二月廿八日」に二重傍線]
片手の生活、むしろ半分の生活[#「半分の生活」に傍点]がはじまる。
不自由を常とおもへば不足なし、手が二本あつては私には十分すぎるのかも知れない、一つあれば万事足る生活がよろしい[#「一つあれば万事足る生活がよろしい」に傍点]。
街へ米買ひに、――食べずにはゐられないことは困つたことだ。
身辺整理、――遺書も認めておかう。
樹明君が病状見舞に来てくれる、酒と下物とを持つて。
死を待つ心、おちついて死にたい[#「おちついて死にたい」に傍点]。
[#
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