下げ]
・人がきたよな枇杷の葉のおちるだけ
・生きられるだけは生きやう草萠ゆる
                 (追加二句)
・萠ゆる草枯るる草に風が強い
・晴れて風ふき仕事を持たない
・やつぱりひとりがよよ[#「よ」に「マヽ」の注記]しいい[#「い」に「マヽ」の注記]雑草(再録)
[#ここで字下げ終わり]

 五月十一日[#「五月十一日」に二重傍線]

起きてまづ空を仰ぐ、そして日暦をめくり捨てる、――けふもすばらしいお天気だ、あれこれしてゐるうちにおそくなつて、とう/\行乞に出そこなつてしまつた。
[#ここから2字下げ]
・どうにもならない矛盾が炎天
・けふは蕗をつみ蕗をたべ(訂正再録)
・ゆふべはよみがへる葉の大きく青く
・のぼりつめたる蟻の青空
・やつと芽がでたこれこそ大根
・なんとかしたい草の葉のそよげども
   行乞
・つかれてもどるそらまめのはな(再録)
・草にうづもれうれしい石かな
 わかれてのぼる月をみて
・ふるつくふうふう月がぼ[#「がぼ」に「マヽ」の注記]る
[#ここで字下げ終わり]
Kおばさんがヒヨコリと来た、掛取かとビク/\したが、そこまで来たので、そしてその人を待つてゐるので、チヨツと寄りましたといふ、といふ訳で、安心して三十分ばかり四方山の話をした。
松蝉がなく、柿が花をつけた、蛙もうたふ。
茶の試製をやつた、珍妙な茶ができた、これでも無いより有る方がよい。
樹明君がきて、飯を御馳走になりたいとは! 酒を飲む君の顔はかゞやいてゐるが、飯を食べる姿は、あゝ、みじめだつた、私もさみしいけれど、君はもつとさみしさうだつた。
生活にムリがあつてはいけない、ウソがあつては助からない。

 五月十二日[#「五月十二日」に二重傍線]

晴、上々吉の天候でもあり気分でもあつた。
旅立の用意いろ/\、これも身心整理の一端だ。
八時頃から行乞と出かける、山口まで急行、四時間あまり行乞、帰庵の途中――農学校附近で、六時のサイレンを聞いた。
新聞も今日限りで一時購読中止。
行乞は自他を省察せしめる、人さま/″\の心かな。
空腹(昼食ぬきなので)へ焼酎一杯はうまかつた、うまかつた。
[#ここから2字下げ]
  本日の行乞所得
米  一升二合
銭  四十七銭
[#ここで字下げ終わり]
黎々火さんの手紙はあたゝかだつた、樹明さんはどんな様子か、血族と絶縁してしまつた私には友がなつかしくてならない。
[#ここから2字下げ]
・雀したしや若葉のひかりも
・若葉はれ/″\と雀の親子
・いちにち石をきざむや葉ざくらのかげ
・ツルバシぶちこんで熱い息はいて
[#ここで字下げ終わり]
 五月十三日[#「五月十三日」に二重傍線] 朝から
           『行乞記』
 五月十九日[#「五月十九日」に二重傍線] 夕まで



底本:「山頭火全集 第五巻」春陽堂書店
   1986(昭和61)年11月30日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小林繁雄
校正:仙酔ゑびす
2009年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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