した。
時々ワヤをやつてもかまはないけれど、後悔するやうなワヤはいけない。

 三月廿四日[#「三月廿四日」に二重傍線]

晴、春風しゆう/\として天地のどかであつた。
朝は塩昆布茶。
或る場所に或る人間を訪ね、たゞ不快を与へられて戻つた、おかげで近来とかく怠りがちの自己省察[#「自己省察」に傍点]が十分に出来た。
非家庭的、非社会的、非国家的な私である、私は非人情的[#「非人情的」に傍点]に生きる外ない。
晩には、味噌汁をこしらへて吸ふた、おいしかつた。
△空腹と鼠とシヤモジ[#「空腹と鼠とシヤモジ」に傍点]――何とユーモラスな事実の題材!
これを書きあげるだけのユーモアが私にあるかどうか!
[#ここから2字下げ]
   やうやく三句
・ゆんべの雨がたたへてゐる、春
・朝から小鳥が木の実たべにきてゐる雨あがり
・夜のふかうしてあついあついお茶がある
[#ここで字下げ終わり]

 三月廿五日[#「三月廿五日」に二重傍線]

雨、春雨、終日独坐。
待つてゐる手紙は来ない、でも、柳は芽ぶいた、桜はふくらんだ、とつぶやいてゐる。
ナマケモノといふ動物を思ひ出さずにはゐられないほど、此頃はなまけてゐる、どうもグウタラから抜けきれない。
味噌漬をかぢりながら湯ばかり飲んでゐる。
少しばかり三八九仕事。
△労働と遊戯[#「労働と遊戯」に傍点]について考へる、人生は「あそび」にまで持ち来されねばならないと思ふ。
夜、寝床にはいつてゐる私を敬治君が起した(私の第六感はやつぱり正しかつたのである)。
お土産の鑵詰を下物にしてお土産の酒を飲んだ、そして二人いつしよに寝た(さうする外ないのだが)、うれしかつた。
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・林は朝のしづくしてゐる藪柑子
・ぬれて水くむ草の芽のなか
・石垣の日向のふきのとうひらいてゐる
 とう/\寝られなかつた鼠の執着
[#ここで字下げ終わり]

 三月廿六日[#「三月廿六日」に二重傍線]

日本の春、小鳥の声、人間の声。
朝酒はよいかな、敬君はまだこのよさを解しない(解すれば不幸だが!)。
飯の白さも四日ぶり、敬君ありがたう。
俊和尚からうれしい手紙。
二人で歩いて二人で入浴、何日ぶりの入浴か、髯を剃る。
樹明君を学校に訪ねる、校庭の何とかいふ桜はもう咲いてゐた。
魚を買ふ、酒を借る、樹明君が七面鳥の肉をどつさり持つて来る、春は三重奏の酒宴
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