ちの灯、ぬかるみをもどる
・しだれざくらがひつそりとお寺である
・釣瓶の水がこぼれるなつめの実(追加)
[#ここで字下げ終わり]

 四月十日[#「四月十日」に二重傍線]

曇、やうやくにして晴、そこらから花見のぞめきがきこえる。
悪筆を揮うて送る、この悪筆が米代になるとは!
知足安分の一日[#「知足安分の一日」に傍点]。
△私の好きな着物はドテラとユカタ、浴衣に褞袍をかさねた快さ。
すべてが、よりよくなる[#「よりよくなる」に傍点]ためのものでなければならない、今日は昨日より、明日は今日よりよりよい生活[#「よりよい生活」に傍点]でなければならない、さて、よい[#「よい」に傍点]とは何か、よりよい生活[#「よりよい生活」に傍点]とは何か。――
△木を見て林を見ない人間[#「木を見て林を見ない人間」に傍点]! さういふ人間であつてはならない。
よく読み、よく考へた一夜だつた。
[#ここから2字下げ]
・やたらに咲いててふてふにてふてふ
 便所の窓まで芽ぶいたか
・雑草にうづもれてひとつやのひとり
・雑草ばかりで花見の唄のきこえるところ
・花のよな木の芽ゆれつつ暮れる家
 春の夜を落ちたる音の虫
・気ままに伸んで香のたかい花つけて
・あれは木蓮の白いゆふざれがきた(改作)
 かめば少年の日のなつめの実よ(追加)
 遠く花見のさわぎを聞いてゐる
[#ここで字下げ終わり]

 四月十一日[#「四月十一日」に二重傍線]

日本晴、春や春、春の春。
うらゝかな空腹[#「うらゝかな空腹」に傍点]だ(いやな行乞はやめとかう)。
天地荘厳、摂取不捨。
今日は絶食的断食[#「絶食的断食」に傍点]である、絶食は他力的、断食は自力的、具体的に説明すれば、米がなくなつた、それもよからう、米なしデーにしてをく、である。
溜池の杭の上に甲羅を干してゐる亀を見た。
公園へ花見連中が繰り込むのを見ても何とも感じないが、山あがり(田舎人のピクニツク)へ行く一家族を見ると、何となく心を動かされる、そして、私の生活のムリ[#「ムリ」に傍点]、といふよりもウソ[#「ウソ」に傍点]を解消しなければならない、と思ふ。
△しづかなよろこび[#「しづかなよろこび」に傍点]――空の、山の、草木の、土の、――流れる水にも、囀づる小鳥にも、吹き去る風にも。――
△近頃どうも心持がきたなくなつたことを感じる、あさましい事
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