私としては、三八九を発刊しつゝ、時々行乞するのが最もよい方法と思ふ、さうする外はないのだから。――
三月十八日[#「三月十八日」に二重傍線] 彼岸入。
晴れたり、曇つたり、とりとめもないお天気。
郵便屋さんからバツト一本供養して貰つた、これも乞食根性のあらはれか!
掃除をする、ほうれんさうのおひたしをこしらへてをく。
樹明君を学校に訪ねて、大山さん歓迎の打合をなし、お茶と煙草とを貰ふ、何から何まで厄介になるのは、まつたくすまない(お嬢さんの容態が悪くないと聞いてほつと安心した)。
△病める七面鳥[#「病める七面鳥」に傍点]!
不精髯を剃つた、学校でIさんから剃刀を借りて。
ちしやを搾取しすぎたのだらう、従来の元気がない。
五時頃、大山さんが約束を違へずに来庵、一見旧知の如く即時に仲よしとなつた、予想した通りの人柄であり、予想以上の親しみを発露する、わざとらしさ[#「わざとらしさ」に傍点]がないのが何よりもうれしかつた、とにかく練れた人[#「練れた人」に傍点]である。
お土産沢山、――酒、味淋干、福神漬、饅頭。
間もなく樹明君も来庵、鶏肉と芹とをどつさり持つてきてくれた、ありがたいお接待役である、主人公はいたづらに右往左往してゐる。
まことに楽しい会合だつた、酒のうまさ、芹のうまさ、人と人とのなごやかさ。
だいぶ更けてから、三人で街を散歩する、すこし脱線したが、悪くない脱線だつた。
三時近くなつて帰庵、大山さんを寝床に就かせてをいて、樹明君を送つて行く、戻つたのが四時過ぎ、後始末してゐるうちに、東の空が白んできた、とう/\徹夜した(それでよかつたのである、実は私が着る蒲団はなかつたのである)。
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・おぢいさんも山ゆきすがたの大声でゆく
十八日夜三句
・つきあたつて大きな樹
・酔ひしれた月がある
・月影ながうひいて水のわくところまで
・水底青めば春ちかし(追加)
・椿またぽとりと地べたをいろどつた
・はなれた家で日あたりのよい家で
・蛙も出てきたそこへ水ふく
・眼白あんなに啼きかはし椿から椿
・こゝにふきのとうそこにふきのとう
・もう郵便がくるころの春日影
・ひつそりとしてぺんぺん草の花ざかり
大山さん樹明君に、二句
・話しつかれてほつと千鳥が
・笠もおちつかせて芹のうまさは
・山の水をせきためて洗ふのがおしめ
・いつも空家のこぼ
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