らう、フレツシユで、あまくて、何ともいへない味だつた、飯とても同じこと、おいしいお菜を副へて食べると、飯のうまさがほんとうに解らない、飯だけを噛みしめてみよ、飯のうまさが身にしみるであらう、物そのものの味はひ[#「物そのものの味はひ」に傍点]、それを味はなければならない。
大根の浅漬に柚子を刻んでまぜた、そのかをりはまことに気品の高いものであつた、貴族的平民味[#「貴族的平民味」に傍点]ともいふべきであつた。
△私は考へる、食べることの真実、くはしくいへば、食べる物を味ふことの真実[#「真実」に白三角傍点]を知らなければならない。
昨夜、樹明君から貰つた干魚はうまかつた、もうほとんどみんな食べてしまつたほど――天ヶ下にうまくないものはない!
△今日の行乞は、ほんとうに久しぶり――半年ぶりだつた、声が出ないのには閉口した、からだがくづれるのに閉口した、必ずしも虚勢を張るのではない、表面を飾るのではないけれど、行乞相は正しくなければならない、身正しうして心正し(心が正しいから身が正しくなるのであるが、それと同様に)、我正しうして他正し、それは技巧ではない、表現である。
△心を白紙にせよ[#「心を白紙にせよ」に傍点]、そこに書かれた文字をすつかり消してしまつて、そして新らしい筆で――古い筆でもよろしい――新らしい文字を――古い文字でもよろしい――はつきりと書け。
私の行乞姿を見ても、そこらの犬が吠えなくなつた、尾をふつては来ないけれど、いぶかしさうに眺めてゐる。
△貧乏は時々よい事を教へてくれる、貧しうしてまづいものなし、きたないものなし。
あいかはらず、楢の葉が鳴る、早寝の熟睡。
[#ここから2字下げ]
・まとも木枯のローラーがころげてくる
・によき[#「によき」に傍点]と出てきた竹の子ちよん[#「ちよん」に傍点]ぎる(改作)
今日の行乞所得
一、米一升七合
一、金十四銭
今日の買物
一金三銭 切手一枚
一金四銭 なでしこ小袋
一金三銭五厘 醤油一合
一金五銭五厘 焼酎五勺
〆金十六銭
これで嚢中は文字通り無一文!
・けふの御仏飯のひかりをいたゞく
・何やらきて冬夜の音をさせてゐる
[#ここで字下げ終わり]
一茶の次の二句はおもしろいと思ふ。
[#ここから2字下げ]
節穴や我が初空もうつくしき
うつくしや障子の穴の天の川
[#ここで字下
前へ
次へ
全43ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング