げ終わり]
一月二日[#「一月二日」に二重傍線]
今夜は樹明君といつしよに飲みあるき踊りつゞけた、あゝ何と酒がうまくて、何と踊のかなしかつたこと!
山手閑居。
一月三日[#「一月三日」に二重傍線]
今日は樹明君、敬治君と三人で遊んだ、遊びつかれて、夜おそく帰つてきた。
私はひとりで涙を流して笑つた、そしてこん/\として睡つた、天国の夢も地獄の夢も見なかつた。
一月四日[#「一月四日」に二重傍線]
曇、お正月もすんだ、すべてが流れてゆく。
アルコールのない、同時にウソのない一日だつた。
[#ここから2字下げ]
茶の花やお正月の雨がしみ/″\
・お正月の鉄鉢を鳴らす
[#ここで字下げ終わり]
また/\人が来て金《カネ》の話をしていつた。
一月五日[#「一月五日」に二重傍線]
雨、寒い、そして静かだ。
夕方、樹明君がきてくれた、そしておとなしく帰つていつた、大出来、々々々。
米がないから餅を食べる。
夜の雨はよかつた、閑寂そのものゝやうだつた。
一月六日[#「一月六日」に二重傍線]
小寒入、時雨。
雨を聴きつゝ、完全に自分を取り戻した。
△乞食になつて、乞食になりきれないのはみじめだ。
餅もなくなつたから蕎麦の粉を食べる。
今日がほんとうの新年だつた、私にとつては。
しづかなよろこび。
△まづしくともすなほに、さみしくともあたゝかに。
自分に媚びない、だから他人にも媚びない。
気取るな、威張るな、角張るな、逆上せるな。
△腹を立てない事、嘘をいはない事、無駄をしない事。
私は執着を少くするために、まづ骨肉と絶縁する、そしてその最初の手段として音信不通にならう(賀状なんかもさういふ方面へは一切出さなかつた)。
私は私を理解してくれる、そして私が尊敬する友といつしよに、友に支へられて生きよう、生きられるかぎりは。
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・枯枝の空ふかい夕月があつた
凩の火の番の唄
雨のお正月の小鳥がやつてきて啼く
空腹かかへて落葉ふんでゆく
・枯木ぱちぱち燃える燃える
誰も来ない夜は遠く転轍の音も
宵月に茶の花の白さはある
・三日月さん庵をあづけます
[#ここで字下げ終わり]
一月七日[#「一月七日」に二重傍線]
寒の雨、考へさせる雨だ。
△一杯の酒は甘露だつた、百杯の酒は苦汁《ニガリ》となつた。
清貧に安んじて閑寂を楽しむ、
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