て三八九を発送した、やれまあ、何とはづかしい。
往復六里、歩いたが草臥れた、とても御飯では我慢しきれないでKで飲んだ、そしてそれから学校の宿直室へ、樹明君と一時間ばかり話して、戻つて寝た。
今日の小遣は。――
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一 金七銭 バツト 一
一、 五銭 古雑誌
一、十五銭 焼酎二杯
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これだけ、これだけ(Kの分は別、まづ一円位)。
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 百舌鳥におこされて初雪
 茶の花やけさの初雪の
・寒い身のまはりをかたづける
 街は師走の、小猿も火鉢をもらつてる
 あれは監獄といふ寒い塀
 入日をまともに金借りて戻る河風
・月が、まんまるい月が冬空
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 十二月十四日

三八九をだしてほつとしたのとアルコールのきゝめによつて、ぐつすりと寝た、たゞすこし胃の工合が悪い、十[#「十」に「マヽ」の注記]週間ぶりにちと飲みすぎたやうでもある。
曇り寒く雨となる、今日此頃はほんとうにようしぐれる、しかししぐれはわるくない、気分がおちついて物をしんみり味ふやうになる。
煙草が粉までなくなつた、火鉢をかきまはして灰の中からバツト吸殻を見つけだしたときのうれしさ、それは砂金採集家が砂金を拾ふやうなものだろう、しかし何としても恥づかしい仕業だ、いはゆる乞食根性のいやしさだ、慾望の奴隷であるな。
いね/\と人にいはれつ年の暮[#「いね/\と人にいはれつ年の暮」に傍点]――路通の乞食吟である、私は幸にして此季節には行乞に出かけなくてすみさうだ、ありがたい。
こゝろのプロレタリアであれ[#「こゝろのプロレタリアであれ」に白三角傍点]、清く純であれ。
白菜はおいしいね。
みんな死んでゆく[#「みんな死んでゆく」に傍点]、――彼も死んだ、彼女も死んだ、――心細いよりも早[#「早」に「マヽ」の注記]敢ないよりも、もつと根本的なものを感じる、生死去来真実人、生死は仏の御命なり、生死去来は生死去来なり、生也全機現、死也全機現、生死になりきれ、生もなく死もないところまで精進せよ。
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冬になつた老眼と近眼とこんがらかつて
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老境の述懐である、しづかなあきらめである、冬日影のしめやかさである、私の自画自賛である。
昨日、山口では、俳句講座と浄土三部経とを預けて郵税を借りたが、S奥さんに対談
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