れて新居へ移って来た、御幸山麓御幸寺境内の隠宅である、高台で閑静で、家屋も土地も清らかである、山の景観も市街や山野の遠望も佳い。
京間の六畳一室四畳半一室、厨房も便所もほどよくしてある、水は前の方十間ばかりのところに汲揚ポンプがある、水質は悪くない、焚物は裏山から勝手に採るがよろしい、東々北向だから、まともに太陽が昇る(この頃は右に偏っているが)、月見には申分なかろう。
東隣は新築の護国神社、西隣は古刹龍泰寺、松山銀座へ七丁位、道後温泉へは数町。
知人としては真摯と温和とで心からいたわって下さる一洵君、物事を苦にしないで何かと庇護して下さる藤君、等々、そして君らの夫人。
すべての点に於て、私の分には過ぎたる栖家である、私は感泣して、すなおにつつましく私の寝床をここにこしらえた[#「すなおにつつましく私の寝床をここにこしらえた」に傍点]。
夕飯は一洵君の宅で頂戴し、それから同道して隣接の月村画伯を訪ね、おそくまで話し興じた。
新居第一夜のねむりはやすらかだった。
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新“風来居”の記
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“無事心頭情自寂
 無心事上境都如”(自警偈)
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 十二月十六日 (晴)

高橋さんの内[#「内」に「ママ」の注記]へ行たり高橋さんが来たりで。……



底本:「人生遍路」日本図書センター
   2002(平成14)年11月25日第1刷発行
底本の親本:「定本 山頭火全集」春陽堂書店
   1972(昭和47)年4月〜1973(昭和48)年8月
入力:さくらんぼ
校正:小林繁雄
2005年6月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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