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或る老人
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ひなたぢつとして生きぬいてきたといつたやうな
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 十二月四日 曇。

早起入浴、読んだり書いたりする。
西へ東へ、或は南へ北へ、さようなら、ごきげんよう。
昼飯をたべてから歩いて――電車賃もないので――市庁のホールへ、そこで茂夫さんの市葬が営まれた、護国居士[#「護国居士」に傍点]、私はひたむきにぬかずく、歩いて五時帰宿、涙ぐましい一日だった。
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土と兵隊
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穂すすきひかるわれらはたたかふ
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 十二月五日 好晴。

何となく身心不調、……何かなしにさびしい。
終日終夜黙々不動[#「終日終夜黙々不動」に傍点]。
きのうもきょうもアルコールなし。
省みて恥じ入る外なし[#「省みて恥じ入る外なし」に傍点]。

 十二月六日 晴。

つめたい、霜がうっすら降っている(松山市内では初氷が張ったそうな)、冬も本格的になってきた。
頭痛、何もかも重苦しいように感じる。
朝食をすましてすぐ出かける、高橋さんの奥さんから少し借りる、局に藤岡さんを訪ねる、出張不在、一杯ひっかけて帰宿、入浴、臥床、妄想はてなし!
夜、高橋さん来訪、その人にうたれる[#「その人にうたれる」に傍点]、私は――私は、――ああああ――と長大息するのみ。
今夜も不眠、いたずらに後悔しつづける。

 十二月七日 小春日和。

朝の一浴、そして一杯、ほんに小春だ!
身辺整理、洗え洗え、捨てろ捨てろ。
午後は近郊散策、道後グラウンドは荒廃している、常信寺はなかなかよい。
夕方、高橋さんを訪ね、同道して義安寺へ参拝、高商の坐禅会に参加する。
帰宿してまた一杯、また、……同宿同室は老人ばかり、しずかでさびしかった。

 十二月八日 曇――晴。

無能無力、無銭無悩。……
  ……………………………
   ………………………………

 十二月九日 晴。

――山頭火はなまけもの也、わがままもの也、きまぐれもの也、虫に似たり、草の如し。
午後近在散歩。

 十二月十日

おなじような日がまた一日過ぎていった。

 十二月十一日 晴。

高橋さんを訪う、同道して貸部屋探し、見つからない、途中、二神さんを訪う、初めて房子さんに会う。
高橋さんから小遣を頂戴したので一二杯ひっかける。

 十二月
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