野にそそり立つ樫樹のような碧松君の堅実な歩調を尊敬する。そして折からの凩に嚔《くさめ》をしたり苦笑したりする破口栓君の心持に同情する。私は三君とりどりの態度に動かされた。私もまた私の一部を暴露したい。荒んで石塊のように硬張った私の感情を少しばかり披露したい。あの大道芸人が群衆の前にその醜い髯面をさらすように!
△私にも春があった。青い花を求め探した、黄ろい酒を飲み歩いた。赤い燃ゆるような唇を吸った。強烈なもの、斬新なもの、身も心も蕩けてしまうようなもの、熱愛する恋人を弄り殺して剖き取った肉のようなものを貪ぼった――実人生を芸術化しようとして悶え苦しんだ、悶え苦しんで何を得た? あゝたゞアルコール中毒!
△自己批評は三人の私生児を生んだ。自棄生活、隠遁生活、そして自己破壊。私はそのいずれと結婚したか。……

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深い穴がある。
冷たい風が吹く。
誰やら歩いてくる――
灰色の靄の奥から、
トボ/\と歩いてくる。
誰だ!
シツカリしろ!
ビク/\するな、
急げ、急げ、
愚図々々せずに急いで来い!
危ない、気を付けろ!
穴がある、
深い穴がある、暗い穴がある。
落ちるぞ、いつそ飛び込め!
――あ、彼は――私はヅドンと倒れた※[#感嘆符三つ、49−5]
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△人生には解決がない。ただ解決らしいものが一つある。それは死だ! と誰やらが叫んだ。然かも死そのものを信じえない人にとっては死もまた解決らしくさえない!
△人生とは矛盾の別名である。矛盾に根ざして咲いた悪の華、それが芸術だと信じていた。今でもそう信じている。と同時に芸術はどうしても道楽という気がして仕方がない。現実の苦痛に泣笑しつつ都々逸でも唄いたくなる。情ない、あさましいと思うけれど、事実は飽くまでも事実である。
△放浪によりてえたる貧しき収穫より――旧作□
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美しき人を泣かして酒飲みて調子ばづれのステヽコ踊る
旅籠屋の二階にまろび一枚の新聞よみて一夜をあかす
酒飲めど酔ひえぬ人はたゞ一人欄干つかみて遠き雲みる
酔覚の水飲む如く一人《いちにん》に足らひうる身は嬉しからまし
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       △ △ △
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△先日の句会では愉快でした。持病の饒舌で諸
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