代錯誤的性情の持主である私は、巷に立ってラッパを吹くほどの意力も持っていない。私は私に籠る、時代錯誤的生活に沈潜する。『空』の世界、『遊化』の寂光土に精進するより外ないのである。
本来の愚に帰れ、そしてその愚を守れ。
私は、我がままな二つの念願を抱いている。生きている間は出来るだけ感情を偽らずに生きたい。これが第一の念願である。言いかえれば、好きなものを好きといい、嫌いなものを嫌いといいたい。やりたい事をやって、したくない事をしないようになりたいのである。そして第二の念願は、死ぬる時は端的に死にたい。俗にいう『コロリ往生』を遂げることである。
私は私自身が幸福であるか不幸であるかを知らないけれど、私の我がままな二つの念願がだんだん実現に近づきつつあることを感ぜずにはいられない。放てば手に満つ、私は私の手をほどこう。
ここに幸福な不幸人の一句がある。――
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このみちや
いくたりゆきし
われはけふゆく
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[#地付き](「三八九」第壱集)
底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫、講談社
2002(平成14)年7月10日第1刷
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