日の御馳走(酢鮹、煮魚、里芋)
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・朝風の簑虫があがつたりさがつたり
・バスも通うてゐるおもひでの道がでこぼこ
・役場と駐在所とぶらさがつてる糸瓜
・かるかやもかれ/″\に涸れた川の
・秋日あついふるさとは通りぬけよう
・おもひでは汐みちてくるふるさとの渡し
ふるさとや少年の口笛とあとやさき
ふるさとは松かげすゞしくつく/\ぼうし
・鍬をかついで、これからの生《よ》へたくましい腕で
おばあさんも出てきて話すこうろぎ鳴いて(M君に)
・相客はおぢいさんでつゝましいこほろぎ
追加
つかれてついてどこかそこらでをんなのにほひ
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九月十二日[#「九月十二日」に二重傍線]
朝、鞠生松原を散歩する。
放下着、放下着、身心ほがらかほがらか。
六時出立、我ながらサツソウとしてあるく、見渡すかぎり出来秋のよろこびだ(実際問題としては豊年飢饉[#「豊年飢饉」に傍点]だらう!)。
末田海岸の濤声、こゝにも追懐がある。
荷馬車にひつかゝつて、法衣の袖がさん/″\にやぶれた。
彼岸花が咲いてゐる、旅の破法衣と調和するだらう。
富海から戸田まで汽車、十時から一時まで福川行乞、行乞がいやになつて、そこからまた汽車で徳山へ、二時にはもう白船居におさまることが出来た。
酒はうまい、友はなつかしい。
井葉子さんもずゐぶん年が寄つたと思ふ、それだけまた、その接待振が垢抜けしてうれしい、感謝合掌。
飲みすごしても、層雲を借覧して、句稿整理することは忘れなかつた、句は酒と共に私の生命の糧である。
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今日の所得(銭十七銭、米一升三合あまり、これは白船君の奥様にむりにあげて、その代償として五十銭拝受)
身うちのものがいふ、――
『あんたもホイトウにまでならないでも、何かほかに仕事がありさうなものだが、……』
私は苦笑して心の中で答へる、――
『ホイトウして、句を作るよりほかに能のない私だ、まことに恥づかしいけれど仕方がない、……』
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・いまし昇る秋の日へ摩訶般若波羅密[#「密」に「マヽ」の注記]多心経
・コスモス咲いて、そこで遊ぶは踏切番のこどもたち
・鍛冶屋ちんかんと芭蕉葉裂けはじめてゐる
煤け障子は秋日の波ですつかり洗つた
おもひでは波音がたかくまたひくく(末田海岸)
・もう秋風のお地蔵さまの首
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